VOL.31
むらかみかずこ 氏 × 山本一郎
アナログだからこそ、心に響くのです
対談相手のご紹介
一般社団法人 手紙文化振興協会代表理事
むらかみかずこ
kazuko murakami
一般社団法人 手紙文化振興協会代表理事。
手紙の書き方アドバイザー○R認定講座を行い、手紙の書き方講師の育成に力を注ぐとともに、自宅で学べる通信講座『手紙の書き方講座』『仕事で差がつく!メール・文章の書き方講座』を開発・運営。企業経営者の仕事に込める想いを言葉にしてまとめる小冊子の制作を手がけた後、2013年に手紙文化振興協会を設立。
今の時代に合う気持ちが伝わる手紙の書き方・楽しみ方や、ビジネスシーンで成果につながる文章の書き方を広く社会に発信している。一年間に書く手紙の枚数は1000枚。一筆箋、レターセット、万年筆、記念切手など
の手紙アイテムをこよなく愛し、文具会社向けに商品開発支援、レターセットの監修等を行う。
2014年4月~NHK Eテレ「まる得マガジン/心が通じる一筆箋」講師。
2016年6月 日本経済新聞出版社より『お客の心をつかむ 売り込みゼロの3分ハガキ術』出版。 その他著書・監修書22冊(2016年611月)。その他にもテレビ・ラジオ出演、新聞・雑誌掲載、多数。
対談の様子
山本:
本日はよろしくお願いします。
手紙や文章を書くことを仕事として始められた理由を教えていただけますか。
むらかみ氏:
さかのぼれば子供の頃からよく手紙を書いていました。書くことであればじっくり言葉を選んで間違えたら書き直すことができ、相手の都合のいい時に読んでもらえる、書いて伝えるというコミュニケーションにずっと意識が向いていたように思います。
就職活動では、出版社、新聞社を受けていたのですが、いろいろなご縁で編集関係の仕事をする会社に就職しました。その後、個人事業主のライターとしてスタートしたのが今から15年前になります。その当時いろいろな企業にお伺いし、その企業の経営者に「お客様にどうなって欲しいか」や「どういった価値を提供していきたいとお考えか」などのインタビューを行い、60ページくらいの小冊子にまとめる仕事をしていました。個人事業主としてやっていくには次から次に依頼をいただくことが必要でしたが、そのセールストークが苦手で、季節の便りを送ったり、書類を送る時に一筆箋に一言添えたりということを自然にしていました。するとお客様から、「いつもありがとう。毎回楽しみにしている。女性社員さんが机に手紙を飾ってある。」といううれしいお言葉をいただくことが多くなりました。そのことが励みになり、「次はどう書こうか、もっと喜んでもらえるには」という気持ちが高まり、一生懸命取り組んでいると、年間1,000枚くらい手紙を書くようになっていました。すると「そのような手紙の書き方をうちの会社に教えて欲しい。そのような手紙の書き方を本にして出版してみませんか。」という話をいただくようになってきました。そして、手書きの良さや実際にどんな手紙を書くのかということを伝えるようになっていったという経緯があります。
山本:
アナログからデジタルにさまざまなものが変わりつつある現在、改めてアナログの手書きの手紙を書くことの大切さを感じています。
むらかみ氏:
そうですね。携帯電話が普及したことで、メールやSNSでのやりとりが一般的になった一方で、手書きの良さが見直されています。めったに手書きの手紙が届かない時代に、たまに受け取るとうれしかったり、自分のためにわざわざ手書きで手紙を書いてくれたと思うことによって相手の印象が良くなり、相手との関係がより深まります。こういう時代だからこそ、手書きの良さが見直されていると思います。
山本:
わたしどもの業界はどちらかというとアナログな業界なのですが、ネット販売に力を入れ過ぎて、間違っていると思うことが増えました。また、あまりお客様に手書きでお礼の手紙を書いたりしていません。わたしは良く手書きの手紙を書くようにしていますが、それが他社との差別化になっているのではないかと思っています。
むらかみ氏:
そうですね。実際に手書きの手紙を受け取ったお客様が大変喜んでいらっしゃるそうで、それが結果として他社との差別化になっているのではないでしょうか。お客様に素直な感謝の思いが届き、信頼が生まれ、良いふうにものごとが回っていく手助けにもなっているのですから、本当に素晴らしいことだと思います。
また、せっかく時間とお金をかけて手紙を送るのであれば、相手に少しでも喜んでもらいたいですね。そのためには何ができるのか、例えば季節にあう絵柄のものを選んだり、相手の趣味にちなんだものなどを使うように考えると、楽しいですね。
昔は遠く離れた人と連絡をとるには手紙か電話しかありませんでした。今は携帯電話があれば、簡単に連絡をとることができます。メールやSNSはあくまで連絡をとりあうための手段のひとつであり、気持ちを伝えるツールとして手書きの手紙が存在価値を高めていると思います。また、気持ちを伝えるためには長い文章を書いてもかまいませんが、自分らしい短い言葉でも十分だと思います。
山本:
以前、鹿児島にある知覧特攻平和会館を訪れ、特攻隊として出撃していく10代の隊員が書いた手紙を見た時、年令に関係なくみなさん字があまりにも上手で驚いたことを思い出しました。また手紙を見ていると書いた方の思いがひしひしと伝わってきました。
むらかみ氏:
そうですね。字をきれいに書けなくて字を書くことを苦手にしている人が多いと感じます。ただ、自分の字に自信がある人はほんの一握りしかいらっしゃいません。それよりはむしろ文字から伝わってくる書いた人の性格や人柄のほうが印象に残ります。必ずしも教科書のような整った字ではなくても良くて、わたしは個人的には見ていてどこか飽きない、愛嬌のある字が好きです。
山本:
目は口ほどに物を言うといいますが、字も口ほどにものを言うのでしょうね。字にも神が宿っているのでしょうか。
むらかみ氏:
わたしもそう思います。字には自然とその時の気持ちが伝わります。にこにこしながら字を書くとそういうふうな字になりますし、必死さゆえに難しい厳しい顔をして字を書くとそれが相手に伝わってしまいがちですね。ですから字を書くときにはできるだけ楽しんで書くことをお勧めしています。
山本:
字を書くことを広げていくためにこれからどういうことをされていかれるつもりですか。
むらかみ氏:
はい。大きく4つのことを考えています。
まず1つ目は、手紙の書き方講師を日本全国に少しずつ育て、手描きを大切にする伝統の後押しができたらと思っています。
2つ目は、文章を書くことが苦手な人に向けて、書き方を学ぶ通信講座を販売しています。
特に今の若い人はLINEで連絡をとることに慣れていますが、社会人になりLINEだけで仕事ができるかというと、そういうわけにはいきません。取引先とメールでやり取りができないと仕事にならない場面も多くあります。会社の先輩や上司が新入社員一人一人に文章の書き方を教えることができればいいのですが、なかなか難しい状況にあります。
そこで通信講座の課題に取り組み提出していただき、それに当協会の講師が添削して、その添削のやりとりを通して文章力を高めていく講座をつくり、販売しています。
3つ目は、企業や自治体での手紙の書き方の研修や講演会。さらに4つ目として、字が華やかで品よく見える、より書きやすい便箋を作っていきたいと考えています。具体的には、岐阜県にある美濃和紙を作られる企業と共同してより書きやすい便箋を監修させていただいています。
山本:
手書きの手紙いいですね。
わたしも伝統を守る仕事ですけど、メールなど便利になりすぎてものごとをしっかり考えなくなってきています。
むらかみ氏:
そうですね。メールやSNS、LINEなども便利ですね。ただ、スタンプを選ぶとそれで済んでしまい、便利さゆえに言葉を考えることが減ってきている傾向があるようです。手書きすることによって自然に言葉力は高まりますから、何かそういうきっかけになることをいろいろと取り組んでいきたいと思っています。手書きを気楽に楽しんでもらえたらいいなと思います。
山本:
そう言えば、亡くなった旦那様から最後にもらった手紙の手書きの字をお墓の正面にデザインされたお客様がいらっしゃいます。お墓に彫られた字を見ると亡くなられた旦那様が生きているかのように感じられるとおっしゃっています。
また、最近むらかみ先生に教えていただいた手紙の書き方を参考に、社内でも楽しく手紙を書く習慣がついてきました。
むらかみ氏:
楽しむことは大事ですね。また手紙まわりの紙、ペン、切手などはうっとりするようなデザインのもの、美しいものが多いです。そういうものに見て触れるだけで癒され元気になる効果もあります。また、にこにこしながら手紙を書いているとそれを見ている人もうれしくなると思います。
山本:
やらされた感じで手紙を手書きするとぎこちないですし、ありきたりの手紙になってしまいます。先生からいろいろと教えていただいてから、はがき、便箋、切手などいろいろ目に留まるようになりました。
むらかみ氏:
いろいろ工夫できますから、「もっともっと」と自然と興味が広がりますね。新しい変わったレターアイテムを見つけるのも、複数の切手の組み合わせを考えて貼ったりするのも、実に楽しいですし、そういった、ともすると「手間」や「作業」になりがちなことも、工夫しだいでいくらでも楽しむことができます。そして、それこそ、手紙を書く醍醐味なのですよね。
山本:
浦島太郎、一寸法師などの日本昔話の古い切手を貼ってお客様に手紙を出したら、どこでその切手を販売しているかを聞かれました。古い切手もいいですね。
むらかみ氏:
数年前、国技館に相撲を見に行かれた方からいただいた相撲の一筆箋や、今年は日本郵便から和の文様シリーズや日本の伝統色シリーズの切手が販売され大変気に入っています。
山本:
そういう特殊な切手を貼って手紙を送って、お客様とその切手でお話ができるきっかけになるのもうれしいです。考えて特殊な切手を貼ってくださったのがうれしいですとおっしゃっていただけます。
山本:
最後にわたしどもの墓石業界についてどう思われますか。
むらかみ氏:
墓石といえば、わたしは父方のお墓が伊豆にあり、旅行を兼ねてお墓参りによく行きます。お墓参りに行くと、良いことをしているような気持ちになります。わたしにとってお墓は良いものであり、大切なものです。そういう意識が広がっていくといいですね。
山本:
今日は貴重なお話をありがとうございました。