著名人との対談

VOL.30

平中克幸 氏 × 山本一郎

プロとは準備が徹底している!

平中克幸 氏 × 山本一郎

対談相手のご紹介

平中克幸 氏 × 山本一郎

レーシングドライバー

平中克幸

katsuyuki hiranaka

北海道札幌市出身のレーシングドライバー。小学6年生の時にカートレーシングに目覚め、14歳(1995年)でカートレースにデビュー。1998年には全日本カート選手権FAクラスにステップアップ。フォーミュラトヨタレーシングスクール(FTRS)を受講しスカラシップを獲得。2001年にFTRSスカラシップ1期生としてフォーミュラ・トヨタに参戦してシリーズ4位。2002年には全日本F3選手権へとステップアップ。2003年から2年間、トヨタ・ヤングドライバーズ・プログラム(TDP)のバックアップを受けF3ユーロシリーズに参戦。2005年からは国内戦へと復帰し、全日本選手権フォーミュラ・ニッポンとSUPER GTに参戦。

出典)https://ja.wikipedia.org/wiki/平中克幸

http://www.k-hiranaka.com/profile

対談の様子

山本:

なぜ自動車レースの世界に入られたのか教えて頂けたらと思います。

 

平中克幸氏:

出身が北海道の札幌なのですが、父が中古車販売を経営し、北海道でレースをしていました。そういう環境で小さな頃からよくレースを見に行っていました。また小学生2年生の頃からミニバイクやポケットバイクに乗せてもらっていました。それからレンタルカートを始めました。最初はただ単純に走るのが好きでした。次第に人と競争することに興味が出てきてレースに発展していきました。当時父の会社で働いていましたが、その時トヨタが開催するフォーミュラレーシングスクールの若手育成プロジェクトがスタートすることを知り、父の勧めもあり受けてみることになりました。今までレースはやっていましたが、顕著な成績や有名なチームと特別な関係があったわけではありませんでした。そのプロジェクトに受かって、そこから自分の中でも本格的にプロの意識が芽生え、それがプロドライバーの第一歩となりました。

 

山本:

それから自動車レースの世界に入られたんですね。命を懸けて行うスポーツで怖くないのですか。

 

平中克幸氏:

ほとんどありません。あえて言うなら雨の中でのレースでしょうか。雨の日に一般道を車で運転する時も前が見にくかったりすると思うのですが、レースではものすごく上まで水しぶきがあがります。そのような状況でレースをする時に、もし何かあったら何もないではすまないと思うことはよくあります。ただ単純にレースが怖いと思ったことはありません。

 

山本:

そうなのですね。
仕事でも商売でも準備が大事だと常日頃思っています。自動車レースでは事故が起こらないように、前準備をしっかりされていると思うのですがどのようなことをされていらっしゃるのですか。

 

平中克幸氏:

体力面で言えばレースには持久力が必要になります。スーパーGTというレースでは300kmの距離を2人のドライバーが交代で走るのですが、1人が1時間30分程度走り続けます。そうすると後半になると体力が消耗し集中力も低下し1周ごとの所要時間にも影響を与え、レース結果にも出てきます。特に持久力を高めるためにしっかりランニングをしています。レースを始めた頃は走るのが楽しかったので今思えば行き当たりばったりでした。レースの結果が出ない時、次に頑張ろうという気持ちの切り替えはすごく早く、逆にうまくいったとしてもその理由を考えることはありませんでした。どのスポーツも結果がすべてで、良い結果が出た時はみんなが称賛して集まってくれますが、良い結果が出ない時はみんながすっといなくなる感じです。レースが終わって結果がでた後からが次のレースの準備が始まります。自分で分析して簡単なところから解決していくということを最近になって心がけるようになりました。レースの世界でも今言われた準備が大切で、レースの前後に考えて行動するように意識して後輩にも指導しています。

 

山本:

レースではチームにどれくらいの人が関わられるのですか。

 

平中克幸氏:

20名くらいいます。具体的には監督を始め、チームマネージャー、メカニック、エンジニアさんなどです。

 

山本:

レース中に事故などが起こるとみなさんがっかりされますよね。

 

平中克幸氏:

やはりチームですのでそうですね。運転しているのは私ですけど、結果が出るまではそれぞれの役割を担っていますし、いい結果がでればうれしいですし、ドライバーが変なミスをすると落胆します。1人1人が気持ちよく仕事をしてもらうことによってチームスタッフみんなに勝たせたい気持ちがあると、ちょっとしたトラブルも無くなります。やはりチームスタッフも人なので、テンションが低いと十分力が発揮できないので、1人1人の実力を発揮させないと結果に結びつかないのです。エンジニアは車のセッティングによって性能を左右しますし、しっかりコミュニケーションをとるように心がけています。レースではドライバーがクローズアップされますが1人では絶対走れません。そういうところに面白みがあり、そういうことを広めたいです。モータースポーツは一般的にはスポーツと思われていません。レースは人ではなくものを動かしているのでわかりにくいのだと思います。

 

 

山本:

レーサーの動体視力は他のスポーツと比べてすごいのではないでしょうか。

 

平中克幸氏:

レースで走っている時は心拍数が200近くまで上がります。これが維持できないと集中力を保つことができません。よい結果が出ない時は心拍数が上がらなく、集中できていない状態にあるようです。あと車内の温度は60度近くになります。もちろんクーラーもついていませんし、耐火スーツを着用するので完全にサウナ状態です。メカニックも耐火スーツを3時間以上も着用し夏場はものすごく熱さを感じます。ホースを通して冷たい水を飲むことはできます。ただそのホースが長いので溜まっている部分の水はぬるいので冷たくなるまでに次のコーナーに差し掛かってしまいます。レース中にはかなりの汗が出ます。

 

山本:

凄い過酷ですね。また、ピットでのタイヤ交換はものすごく早いですね。

 

平中克幸氏:

専用の道具を使用するのですが、レースでは5秒で1輪替えます。メカニックも日頃から整備工場で準備して練習されています。

 

山本:

練習をされていてもレースでタイヤ1輪でもミスがあり、チームで何か1つでも欠けてもレースは終わってしまい、すごい仕事だと思い興味があります。

 

平中克幸氏:

レース自体小さいころからやっていましたので苦にはならないですね。ただサーキットを50周から100周するとなると体力がかなり必要とされます。トレーニングにも限界はありますが、そのために日々トレーニングをしています。以前鈴鹿でのレースでトップを走っていたのですが、変なタイミングで他の車が事故を起こしてしまって、先導するセーフティーカーが走って来て車が連なって走行することがありました。せっかく稼いだものがマイナスになりレースに負けたことがありました。

 

山本:

事故が起こってセーフティーカーが出てくるとモティベーションが下がったりされることはないのでしょうか。

 

平中克幸氏:

そうですね。モティベーションが下がる人もいると思います。私は気持ちがリセットされていい休憩になるという感じがします。私は一気に集中力を高めることができるタイプだと思っています。あまりよくはないと思うのですが、以前レースで車に乗る5分前まで寝ていたことがありましたが、車に乗ると一気に集中力が高まりました。レースに出ていないところではリラックスでき、力の抜くところはしっかり抜いてメリハリがつけられる方だと思います。

 

山本:

レースは過酷ですね。

 

平中克幸氏:

レース自体慣れてしまえばそれほどでもありません。スピードもあまり気にならなくなります。

 

山本:

どのくらいまで選手として活動される予定ですか。

 

平中克幸氏:

最低でもあと10年はトップの現役として活躍したいです。10年後を見据えて今できること、トレーニングや体調、体力にも気を使って先ほどの話にも関連しますがしっかりと準備をしていきたいと考えています。

 

山本:

命を懸ける仕事としてはプロ意識を持って取り組まなければならないと思うのですがいかがですか。

 

平中克幸氏:

ここ最近プロ意識も理解できるようになってきました。20代はただ速く走ることがプロだと思っていました。実はそれだけではなく期待以上の成果を出すのがプロだと考えています。そういった意味では色々考えながら走っています。

 

山本:

20名近くスタッフの中でもし一部でもやる気がない雰囲気があったでもいたとしたら緻密なレースにはひずみが出てくるのではないでしょうか。

 

平中克幸氏:

メカニックの方は普段工場で整備をされていますが、それがとても重要になってきます。最後は本当に1人1人が重要になってくるのでモティベーションを上げるために自分がしっかりとリーダーシップをとって全体を上げるようにしています。
昔はメーカー企業のチームに所属していましたが、任せっきりで走ることだけをこなしていました。現在はプライベートのチームオーナーの元で、チームを組んでいます。国内ではそのようなチームはあまりないのですが、そういった中で一戦一戦がとても重要となってきます。そのためにしっかり準備をしていけば良い結果にもつながるということが分かるようになりました。ある意味メーカー企業のチームの時は楽しめていましてが、いまはとてもやりがいを感じています。

 

山本:

今回、平中さんの縁をいただいたのが、故山本俊茂元監督の奥様でした。弊社でお墓を建てていただいて、お客様から紹介していただく事に、凄く嬉しい気持ちでいっぱいなのですが、どんな方だったのですか。

 

平中克幸氏:

ちょうど私がチームに入った時に監督になられて、リーダーシップを発揮されしっかりと裏でチームの動きを見て必要な時に的確なアドバイスをして下さる人でした。やる気が感じられないメンバーがいればサポートして下さって、私としてはとてもやりやすいチームでした。山本監督がいらっしゃったので私もリーダーシップをとって行くことができたと今でも感謝しています。チームは信頼関係が大切だと感じました。山本監督は結果が出ない時は絶対にドライバーのせいにはしない方で、特にあれこれと指示を出されることなく信頼してもらっていました。その信頼には成果で返したいという気持ちが強くとても雰囲気のよいチームでした。レースの世界では人間関係もとても大変で難しいスポーツです。普段練習できるスポーツではないので自分が練習したら結果がでるものではありません。そういうところにもやりがいを感じます。

 

山本:

う~ん、とても勉強になりました。たくさんのいいお話が聞けせていただき、ありがとうございました。
(パドック内を拝見させていただき、整理整頓、清掃、清潔などすべてに準備と役割分担が出来ていた。プロとはこういうものだと教えていただいた。)