VOL.21
市川愛 氏 × 山本一郎
終活は生き方を考える漢方薬です。
DIGEST
もうすでに、地域のコンシェルジュになられているように思います。お墓、お葬式について、もっと楽しく話ができる世の中になればいいなと思います。
対談相手のご紹介
市川愛事務所代表
市川愛
ai ichikawa
1973年 神奈川県川崎市出身
市川愛事務所代表/一般社団法人 終活普及協会理事
2002年に服飾メーカーを退職後、当時葬儀業界初の葬儀社を紹介する企業に入社。約300社の葬儀社と提携し、紹介業務を行なう中で、服飾業界では当たり前の「顧客サービスの常識」が、葬儀業界ではまったく通用しないこと、そして、あまりに前時代的な考え方の葬儀社が多いことに大きな衝撃を受ける。
葬儀社紹介業で勤務しながら、「ウェデング業界にはウェディングプランナーがいる。不動産業界には不動産鑑定士がいる。それならば、葬儀業界にもプロのサポート役が必要なはず」「葬儀業界を、もっと消費者視点あふれる業界にしたい」との想いが大きくなり、2004年に独立。
ウィディングプランナーをヒントに、「葬儀相談員」という新しい形態の葬儀サービスを考案し、相談対応・葬儀現場でのサポート等を提供していく中で、「事業者にも消費者視点を導入するお手伝いが必要なのでは」と考え、2005年より葬祭事業者へのコンサルティング業務を開始。
そして、2007年に母を看取り、その時の後悔を元に、2009年、総監修を務めた週刊朝日誌連載「現代終活事情」にて、「終活」という言葉を創る。この終活を広めていきたいという想いで、2011年、一般社団法人終活普及協会を立ち上げ、「終活」は2012年の「ユーキャン新語・流行語大賞」に入賞。
独立当時の「葬儀業界を消費者視点あふれる業界にしたい」という変わらぬ想いをテーマに、日本初の葬儀相談員として、のべ4,000件を超える皆さまからの相談・質問にご対応するほか、お葬式の事前準備サポート、各地での講演、執筆、研修、コンサルティングを行っている。
対談の様子
山本:
今日はありがとうございます。
早速ですが、終活を始められたきっかけを教えて頂けますか。
市川氏:
2009年に、週刊朝日の連載で終活ということばを創り、その考え方を発表しました。きっかけとなったのは、2007年に母親が他界し見送った経験です。当時わたしは葬儀相談員として独立していましたので、プロとして出来る限りの、母らしさいっぱいの葬儀を行いました。ピンクの配色や遺影の写真にこだわり、350人くらいの方が参列して下さいました。しかし葬儀を終えたあと、いろいろな思いが積もり、「これで喜んでくれたのだろうか」という疑問や、もっと他の方法があったのではないかという後悔が芽生えました。親戚にもよいお葬式だったと言ってもらったのですが、母が亡くなる前は危篤の状態が続いていたので、本人の気持ちを聞くことができなかったのです。もし時間を戻すことができたら、母親がせめて葬儀の要望を言い残してくれたら、わたしはそれを叶えることができたのではないかと思うようになりました。
それに気付かせてくれたのは、わたしの所に相談にいらっしゃる相談者の方々でした。本人が一生懸命に生きようと頑張っているのに、一方で葬儀を準備することに罪悪感を感じていらっしゃる家族の方が多いことです。わたしの所に相談にいらっしゃる方の全体の8割がご家族からの相談で、ごく少数ですが2割くらいがご本人からの相談になります。自分で相談にいらっしゃる方は、葬式のことだけでなく、考えたいことが次から次へ思い浮かんで、なんて素敵なのだろうと感心させられます。
2009年に週刊朝日で初めてお葬式の特集を組んだところ、大きな反響をいただきました。お葬式のことをみなさんが知りたいということがわかって、集中連載をする機会をいただきました。それまでは没前準備や死ぬ準備、人生のしまい方といった後ろ向きの感じであったのですが、そうではなく活き活き前向きなエンディングにしたいと思い終活をスタートさせました。
山本:
あっという間に終活ということばが有名になりましたね。
市川氏:
終活ということばが2010年末の流行語大賞にノミネートされ、そのころから浸透し始めました。また、2012年に流通ジャーナリストの金子哲雄さんが亡くなられ、自分の葬儀を自分でプロデュースされた本がベストセラーになり、年末には、再び流行語大賞にノミネートされ、今度は入賞することとなりました。その頃から勢いよく社会に広がって行ったと思います。
しかし、一旦わたしの手元から終活ということばが離れると、意図しない使い方をされることも多くなりました。例えば、終活は、「死ぬための準備」ととらえられたりすることもあるのですが、実際は活き活きと生きるためのものなのです。わたし自身の発信力が十分でなかったことも原因だったと思います。
年に数回、全国の葬儀会社さんの集まりなどで講演する機会があるのですが、終活が本当に家族にとって幸せで絆が深まるとよく話題になります。また、相談をされるなかで、家族の方々も万が一のことが心配で、親にエンディングノートを書かせたいと思っている方が多いことがわかります。その時には、まず自分がエンディングノートを書いてみて、そのことを家族で話し合うことは不幸なことではなく、いい時間の共有になることをお話しています。
山本:
わたしは、葬式は日本の文化だと思っています。また最近では家族葬ということが流行っているように思います。
市川氏:
そうですね。家族葬の方がこじんまりして、メリットとしては料金が安く行うことができるということも言われていますが、家族葬の本来のメリットは、気心知れたお身内の方々とゆっくりと見送る時間を過ごせることです。費用的には、香典収入がない分、ほとんどが遺族の家計から持ち出しになるということが、あまり考えられていないように感じています。
家族葬と一般葬、どちらがいいお葬式か?ということではなく、特徴が違うのですから、その人にとってどういう形がいいのかを考えていただきたいと思います。
例えば、家族葬が終わって事後報告で訃報を知った方々が、自宅に弔問にいらっしゃって、なかなか日常に戻れないといった相談を受けることがあります。また自然葬に関しても、ご遺骨をすべて散骨してしまい、あとで後悔したという相談を受けることもあります。それぞれにメリット、デメリットがあり、それを理解し納得したうえで選択することが大切だと思います。
山本:
わたしも昨年父親が亡くなり、火葬場に行った時の話なのですが、そこで10数名のジーパンにTシャツ姿の方々を見たことがあります。その方々は、火葬証明書だけを受け取り、ご遺骨は持ち帰られないという状況でした。この話をすると、あまりにひどいことだとおっしゃる方もいらっしゃるのですが、そうではなく、わたしはその両親のしつけに問題があったのではないかと思います。
市川氏:
そうですね。それは、亡くなったらご遺体を病院から直接火葬場に送り、火葬後は遺骨を受け取らずに帰るというゼロ葬ですね。ここまで来るとあまりに簡素化が行き過ぎていると感じます。
山本:
わたしも死に対する感覚が、軽薄しすぎてしまっていると思います。最近は四十九日法要を行わなくなったりもされていますが、亡くなった人のことをもう少し見つめてみる必要があると思います。
市川氏:
今までの祖先があって、今の自分がここにいるというアイデンティティをもっとよく見つめなおし、考えるべきだと思います。あまりにも断ち切りすぎてしまっている感じがします。
山本:
わたしも法要の相談を受けることが多いのですが、本来はお寺さんの役割だと思います。
市川氏:
最近では、読経を依頼するときに初めてお寺さんと話をすることが多いようです。例えば我家でも、わたしの母親が亡くなり、父親が喪主を務めるようになって、初めてお寺さんと話をしていました。最初はお寺さんに全く価値を感じていなかったようなのですが、アドバイスをいただいたりするうちに、次第にありがたさを感じるようになっていきました。最近では、お寺さんの行事があれば率先して足を運ぶようになっています。お寺さんのパワーはものすごく、父親の変わりようを見ていると、自分事になった時に人は変わるということがよくわかりました。
今思い返すと、母親が亡くなった時、故人の枕元でお経をあげる枕経をしていなかったことは失念でした。第一報をお寺さんにしていれば、そういうこともなかったのですが。一般的にお寺さんというと敷居が高いイメージがあるのですが、実際に接してみないとわからないですね。
山本:
最近、いろいろところで終活のイベントを行われていますが、思うように集客できないような話をよく聞くのですが、終活自体には即効性はないと思っています。
市川氏:
そうですね。終活の目的が見込み客リストのためなのか、お客様の頼れるパートナー関係の構築作りのきっかけなのかによると思います。
山本:
2年前にある終活のイベントで講演をさせていただく機会がありました。その時参加されていらっしゃる方の約40人がお墓をすでにお持ちだったのですが、そのうち今でも石材店とお付き合いがある方を尋ねてみると、ほとんどいらっしゃらなかったのです。また、購入された石材店を、そのうちの半分くらいの方々がご存じなかったのです。
市川氏:
石材店の方からすると、何かあったらお問合せ下さいという感じなのでしょうか。ニュースレターなど何かお客様とつながるものが1つでもあればいいと思います。多くの業者さんが新規客にお金をかけていますが、そのお金の半分または1/3でも既存客にかけてあげると、少しずつ浸透していって、地域にとって必要とされる企業という認識が芽生えてくると思います。そうすると、地域の方々がその企業のことを知っていて、チラシや広告を出す必要が少なくなります。ニュースレターには、葬儀やお墓に全く関係のない記事でもよくて、豆知識や地元の方言など、思わぬ記事にファンがついて、イベントをやるときに新しいお客様を連れてきてくれるようになります。消費者ということばがありますが、実際に消費しているのは消費者ではなく、ある意味企業なのかもしれませんね。
山本:
今お話しいただいたニュースレターは、弊社では13年前からお客様にお届けさせていただいています。7年くらい前からは2ヶ月に1回のペースで、現在は全8ページの内容でカラー印刷になっています。記事は、わたしが海外の著名な方のお墓を訪問したことや、著名な方との対談などを掲載しています。すると、1か月後くらいに、お客様とその話題となることがあり、こちらが驚かされます。お客様が毎回のニュースレターを読んでいただいていることを実感しています。
市川氏:
すばらしいですね。毎回のニュースレターで、すでに好きなコーナーを楽しみにされるお客様もいらっしゃって、いい関係がすでに構築されているのですね。
山本:
昨年も、多くの既存のお客様に新規のお客様を紹介していただきました。本当に感謝しています。ニュースレターは1日でできたのではなく、何年もの月日を積み重ねて、今の形ができあがっています。
最近マスコミがよく墓じまいのことを番組で取り上げているのですが、なかには本当にお墓のお世話をする人がいない場合も確かにあるのですが、お墓の移転も含めて墓じまいが報道されていて、疑問を感じることがあります。
市川氏:
お墓の引っ越しは供養の継続になりますよね。
山本:
よく、お墓は動かさない方がいいのではないかという相談を受けます。先祖代々のお墓が地元にあって、そこにすでに親族が誰も住んでいなくて、今後もそのお墓参りに行かれますかという話をよくします。また、お墓の移転を考えている方の多くが、高額な金額がかかると思っていらしゃいます。弊社ではお墓移転の問い合わせがあれば、実際に現地に行き、それから見積もりを出すようにしています。業者のなかには、現地を見ずに見積もりも出すところがあったりして、そのことがお客様に不信感を与えている話もよく耳にします。
市川氏:
それによく似た葬儀のお話もあります。以前、社葬を考えてお寺さんに葬儀社を紹介してもらった企業が、あまりにもずさんな見積もりで、不信感を抱いた話を聞いたことがあります。
山本:
心がなさすぎて非常に残念な話ですね。日本全国にも、改善されずにこういうことがまだまだたくさんあると思います。
市川氏:
見積もりを比較検討するのが当たり前の状況になれば、他社のサービスを調査せざるを得なくなるので、そうすればもっと改善されると思います。
山本:
相談した最初の会社がそういうところだと、消費者の立場からすれば、やめておこうかという思いにつながりかねません。
市川氏:
消費者へのアピールを価格競争で行う企業も多いのですが、お客様からすれば、価格でなく、助けて欲しいまたはサービスを求めに来ている方もいらっしゃるので、その本心に気づくことが大切だと思います。それはエンディングノートの内容を叶え、しっかり故人を見送りたいという終活の本来の意味を考え直すことだと思います。
山本:
終活のイベントで人気があるのは、遺影を撮影するコーナーや棺桶に入ってみる体験コーナーではいつも行列ができています。
市川氏:
死を考えることが生きることであり、自分らしく生きた先にエンディングがあると思います。
山本:
お墓については、市川さんはどう考えていらっしゃいますか。
市川氏:
父親が末子の長男で、わたしは姉妹の女系家族なので、このままだと先祖代々のお墓がなくなるかもとおばに以前相談しました。また、どうして一代限りのお墓があってはいけないのかと素朴な疑問をもっています。継承者がいなければ、墓石を撤去するまでをパッケージ化した商品があってもいいのではないかと思っています。もし、わたしがおひとり様で死んだ場合、一人で納骨堂には入りたくはありません。両親も入っているところに是非一緒に入りたいです。もっとこうしたらいいのにと消費者が声をあげることも大切で、いろいろな選択肢から選べるようになるといいと思います。
山本:
わたしも地域のコンシェルジュになれるようにこれからも頑張っていきます。
市川氏:
お話を伺うと、もうすでに、地域のコンシェルジュになられているように思います。お墓、お葬式について、もっと楽しく話ができる世の中になればいいなと思います。
山本:
本日はいいお話を聞くことができましてありがとうございました。