VOL.9
西木文明社長 × 山本一郎
自分の人生の末期(まつご)について準備することは人としての作法(終活)です。
DIGEST
子供どうしがもめてしまっても、感情の部分ではどうしようもなく、最後は法律で線引きをするしかありません。
そのためにも子供たちがもめないようにするためにも、遺言や相続のことを元気な時から考え、行動をしていただきたいと思っています。
財産を残して亡くなられる親は、子供達が仲良く分けてくれるだろうという考えで、相続の問題の火種を残して亡くなられてしまうのが実情なのです。
本来は、親が子供達のために、生前に書き残しておかなければならないことです。
対談相手のご紹介
あさひ法務事務所代表
西木文明
fumiaki nishiki
兵庫県の三田学園から立命館大学に進学し、紳士服メーカーに就職。
阪神淡路大震災で母を亡くした際、相続の煩雑さを知る。
平成10年に西木事務所開設。その後いち早く相続遺言専門事務所、あさひ法務事務所として生まれ変わり、現在年間500件に及ぶ相続相談に応えて、60件の講演をこなす相続のプロ。
日刊ゲンダイに相続のコラム連載中。
対談の様子
山本:
木社長が相続のお仕事をするきっかけは何だったのですか。
西木社長:
相続の仕事をするきっかけとなったのは18年前の阪神淡路大震災だったのですが、
その時の私はまだこの仕事はしていませんでした。私は母と姉との3人家族で、当時母は一人暮らしをしていたのですが、
あの震災に遭遇し、母は亡くなりました。それまでの私は自分の事を含め、身近な人の死について考えた事はありませんでしたので、
突如、母の死に直面することとなった私は、葬儀の事も宗派の事も、そして相続の事も全く分かりませんでした。
葬儀のしきたりなど全く分からなかった私は、葬儀屋さんに「ご宗派はどちらですか」とたずねられても答えることができず、
その場から親戚のおばに電話で相談をする有様だったのです。母の葬儀も無事終わり、その後、母の遺産整理をすることになったのですが、
母は自分の老後の事を考えておりまして、いわゆる財テクをしていました。母の現金や株券を相続する手続きをすることになった私だったのですが、
当時サラリーマンだった私は土日が休みでしたので、ご存じの通り、金融機関は土日が休みなので、母の遺産整理にものすごく時間と手間が掛りました。
金融機関の手続きがなかなか思い通りにできず、その当時の私は心の底から、「お金を払うから誰かやって欲しい」という思いでしたが
、当時は相続について専門的に処理をする業者はまだありませんでした。私はその頃、行政書士の勉強をしていたこともあり、将来、行政書士になったら、
この仕事をやっていこうと思ったのです。
山本:
お母様を震災で亡くされたことがきっかけで、この仕事をはじめられたということですが、最初はご苦労もあったのではないですか。
西木社長:
開業して4、5年ぐらいは、相続のお仕事だけでは事業を成り立たせることができなかったのですが、
同じ行政書士の仲間どうしで、相続のお仕事での組織づくりの立ち上げに参加をしまして、私はこの組織の中で相続の勉強をしました
。そしてこの組織かた独立することになり、本格的に相続のお仕事をすることとなったのです。ちなみに、立ち上げに参加したこの組織は、
今では業界の大手になることができました。
山本:
最近、テレビでもよく紹介されているエンディングノートが話題になっておりますが、
先日、NHKのテレビで野村克也監督のエンディングノートが紹介されていまして、野村監督のエンディングノートには自分の人生を振り返る、
自分史のようなことが書かれていました。西木社長はこのエンディングノートについてどのようなご意見をお持ちなのか、お聞かせいただけないでしょうか。
西木社長:
その当時、終活や相続の情報などはあまりなかったですし、4、5年前までは相続や遺言セミナーを開催しても、人はあまり集まりませんでした。しかし、今では書店には多くの関連本がありますし、先日、本屋に行くことがあったのですが、エンディングノートに関する本もたくさん置かれていました。私はその数の多さに圧倒され、今の時代の関心の高さに驚かせられました。
私はいくつかのエンディングノートを手にとって見たのですが、もし、エンディングノートを買われるのなら、あまり分厚くないものをおすすめしますね。
あまりにも分厚いエンディングノートは、すべてを書き埋めることは大変難しいのではないかと思いました。
ただ、何を書いておけばいいのだろうかと自分を見つめ直すきっかけにはなりますので、エンディングノートに書くことを考えることは、
とても大切なことではないかと思いました。
山本:
このエンディングノートというものは遺言書のように法的に認められるものなのでしょうか。
西木社長:
いくら一生懸命にエンディングノートに書いたとしても、残念ながら法的な効力は全くありません。
よく勘違いされる方が多いのですが、エンディングノートの後ろ側に遺言を書くスペースが大方のエンディングノートにはあるのですが、
これは法的な効力のある遺言書とは全く違うのです。私の思うエンディングノートというのは、先ほどの野村監督の話のように自分の人生を振り返り
今から自分の老後のことを考えること、いわゆる「終活」の入り口だと思うのです。だから私はお客様や知人などにエンディングノートを書くことを勧めています。
山本:
では、せっかく書いたエンディングノートを遺言書のように効力を持たせるのにはどうすればいいのでしょうか。
西木社長:
一般的な遺言書はあまり長い文章は書きません。
簡潔にまとめた文章だけのものなのですが、エンディングノートには遺言するに到った背景、
例えば子供や家族への想い、葬儀はこの程度にして欲しい、お墓をたてるならこんなお墓にして欲しいというようなことを楽な気持ちで書いてもらえればいいのです。
このような想いなどの背景に関することは遺言には関係ないのですが、遺言書に記載する必要がある大切な部分だけを抜き出せば、遺言書を作成できますので、
そういう意味ではエンディングノートでも効果的なものになります。
山本:
遺言書とエンディングノートの違いとはどういうものなのでしょうか。
西木社長:
エンディングノートには自分の生まれ育った生い立ちや、学生の時の思い出などを書くところがあります。
書かれた方がお亡くなりになり、残された遺族がその後に読まれると、亡くなられた方はどんな人生を歩まれてきたのかなど、
その方を想い返すことができますが、遺言書には生い立ちや思い出などは書きませんので、遺言書を読まれても想い返すことができません。
エンディングノートとは気持ちや感情の部分を書き遺すことができるのに対し、遺言書は気持ちや感情の部分を排除しますので、
自分史的なものを遺されたいのなら、エンディングノートは非常に有効な方法です。
山本:
先ほどのお話しにも出てきました「終活」について、西木社長は終活の講演をされているそうですが、 終活とはどのようなものなのかお話しをいただけませんか。
西木社長:
5、6年ぐらいから終活について興味を持たれる方が増えてきました。
これは実際に相続トラブルに遭われた知人や友人からの実害があった話を聞いて、事前に対策や心構えをされたい方が多くなってきているかと思います。
具体的には親戚間での財産の争いや親が認知症になって手続きができなくて困った話など聞かれて、
終活を考えなくてはいけないと思っている方が増えてきているのではないでしょうか。このように終活を考えるとは私たち法律家では「成年後見※」を考える割合が多く、
例えば亡くなったあとに、どのような葬儀をして、どのように納骨をして、相続をどうするのかというこの3つをワンセットにして考えます。
元気で意識もハッキリとして過ごして来られた方がある日、突然お亡くなりになられた場合は、成年後見のことを考えることはありませんが、
自分がどのようにして亡くなるのかは誰にもわかりません。終活を考えるということは、まず成年後見をどのようにしておくのかということを考えるところから始めます。
ところが、相談に来られる方に「葬儀はどのようにしますか?」とお尋ねしても、「どうしよう・・・」と悩まれてしまうのです。
※成年後見制度とは・・・
認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、
身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約(けいやく)を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、
自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。このような判断能力の不十分な方々を保護し、支援するのが成年後見制度です。
山本:
葬儀と言えば、最近は直葬といいまして、亡くなっても葬儀をされずに直接、
火葬場にてたびに付すことなのですが、その割合が増えてきています。このような現象について、何かご意見などはありますか。
西木社長:
関西ではまだ少ないですが、関東ではすごい割合になってきていますね。言葉は悪いですが、
私は直葬とは人の葬儀なのかなという気がするのです。結婚式もそうですが、今の時代、セレモニーを簡素化する風潮があり、
お金に対する価値の損得勘定が優先してしまっているのではないでしょうか。この風潮はとても危険なことだと思うのです。
現に、私のところに終活で相談に来られる方の7、8割が葬儀は直葬で、お墓は永代供養墓で良いと言われるのですが、直葬や永代供養墓とはどういうものなのかという質問をしても、理解されていない方がほとんどなのです。
では、どうして直葬や永代供養墓が良いのかと聞いてみると、「自分のまわりの人がみんな直葬や永代供養墓で良いと言っている」という具合で、自分にとって本当に必要なものは何かをよく調べて、その中で自分にあったものを選択していかなければ、後で後悔することになるのではないでしょうか。
山本:
私も仏事講座の講演依頼を受けて、お話させていただくのですが、講演に来られている方からされる質問に、
「子供達と上手に話ができないから、私たちが亡くなったあとは、子供達が適当にやってくれるでしょう」というように安易に考えている方が非常に多いですね。
私はなぜ、そのような質問をされるのかを考えてみると、親の世代が仏教や仏事ごとをその親の世代からキチンと教えてもらえていないという背景があるので、
子供達の世代に上手く話をすることなんてできる訳がないのは当たり前だと思うのです。そして、いざ親が亡くなった時に、
インターネットでの情報を安易に鵜呑みをしてしまい、間違った事をしてしまうという危険なことになってしまいますからね。
西木社長:
私には娘2人がいるのですが、娘が嫁いでしまうと、
私がお墓を作っても誰が見てくれるのだろうということで、実は永代供養墓で考えていました。
しかし、終活の相談を受けたり、山本社長の話を聞いたりしているうちに、自分の考えが変わりまして、
今では講演や終活の相談に来られる方に、自分にあった葬儀や納骨方法の選び方や、セレモニーの大切さをお話しさせていただいています。
山本:
大変すばらしいことですね。今の人たちが仏教や仏事ごとに関心が無くなってしまったのは、お寺さんに対して、
とても不信感を抱いてしまっているからではないかと思っています。お坊さんとお付き合いするとお金が非常掛かるという偏見があり、
そんなお坊さんばかりではないのに勝手に決めつけていたりしていますね。今では初七日後の法要は四十九日まで無かったりするのは当たり前ですし、
ある方は四十九日の法要はお金がもったいないから断りますと言われた住職のお話を聞きまして、ものすごく、人としての希薄さというのを感じました。
西木社長:
確かに気持ちが希薄になるのは不景気な時代だからかも知れません。ところが、終活に相談に来られた方が死後事務委任契約の中で、
「葬儀は家族葬や直葬、納骨は永代供養でお願いします」との書かれている内容の変更をお願いされることが増えてきていまして、その変更理由とは、実際の家族葬や直葬に立ち会った方が、「こんな葬儀は嫌だ」ということで、書き直しをお願いに来られるのです。立ち会った方は実際の様子を見て、考え直したと思います。私はこの変化は良いことだと思っていまして、終活を考えている方は、本当によく調べて、講演会などを聞きに行くのが良いかと思います。
山本:
私もそう思います。直葬や家族葬が増えた要因の一つに、戦略も理念もない葬儀会社が増え過ぎた事が原因だと思っています。
価格重視、値段競争に走り、亡くなられた方へのお別れもさせない葬儀は後々大きな問題になると思っています。
それでは最後に、相続の必要性についてお伺いしたいのですが、私も西木社長に相続の手続きの話を教えていただいて、相続の知識がないと損をしてしまうことがあったり、手続きに大変な労力を費やすことになってしまったり、一般的にはあまり知られていないのではないかと思いますので、その辺りのお話を聞かせていただければと思います。
西木社長:
いざ、相続の手続きを始めようと思っても何から手続きをすればいいのか解らない方が大半ではないでしょうか。
家族の方が亡くなり、葬儀や納骨をしなければならないのは、誰もが知っています。相続も同じなのですが、多くの方は銀行や年金事務所に手続きに行かれます。
そしてその場でいろいろと手続上の書類提出を求められるのですが、何がなんだか解らない用語や聞きなれない書類の名前を言われ、戸惑ってしまうのです。
そして、戸籍謄本などの書類を集めても、違う金融機関で同じ書類の提出を求められ、再び書類集めにまわらないといけないということになります。
山本:
高額な金銭ならともかく、少額の金銭なら書類集めに掛かる費用もその都度集めていたらバカにならないですよね。
西木社長:
そうなのです。私たちに任せていただければ、取り寄せた書類は再度利用できるように手続きをしていきますので、無駄はなくなります。このように相続の手続きは大変そうに思われがちですが、書類集めよりもっと大変なことは相続人の印鑑を押してもらえるかどうかなのです。
預金や不動産などを法律上の権利で分け合うと思っていても、実際に亡くなるまでのお世話をしていたかどうかなどで利害関係か生じ、家庭裁判所に持ち込まれる相続の調停件数もここ10年で倍の数になっています。相続人としては1円でも多く欲しいのが心情ですが、財産を残して亡くなられる親は、子供達が仲良く分けてくれるだろうという考えで、相続の問題の火種を残して亡くなられてしまうのが実情なのです。
本来は、親が子供達のために、生前に書き残しておかなければならないことです。
山本:
先ほどの終活の話でも、葬儀や納骨のことを子供達に任せておけば良いと思っている親のことと全く同じ安易な考えですよね。
西木社長:
そうですね。親が事の大変さに気づいていないのです。子供どうしがもめてしまっても、感情の部分ではどうしようもなく、
最後は法律で線引きをするしかありません。そのためにも子供たちがもめないようにするためにも、遺言や相続のことを元気な時から考え、行動をしていただきたいと思っています。
山本:
本日も勉強になるお話を聞かせていただきました。誠にありがとうございました。