著名人との対談

VOL.10

橋口玲氏 × 山本 一郎

お墓とは、ふとした時に帰れる場所として必要だと思います。

橋口玲氏 × 山本 一郎

対談場所:滝井仲田法律事務所

DIGEST

お彼岸やお盆の都度にお墓へ行くことも大事だけれども、 ふとお墓へ出向き、
花を手向けてちょっと手を合わせるだけでも話をした気分にもなるし、そういった意味ではすごく大事だと思います。
そこに行けばいつでも話ができると毎日思っているわけでは正直ないけれど、ふとした時に帰れる場所として必要だと思います。

対談相手のご紹介

橋口玲氏 × 山本 一郎

滝井・仲田法律事務所所属

橋口玲

rei hasiguchi

滝井・仲田法律事務所所属
同志社大学法学部法学研究科卒業。同大学卒業4年後に滝井・仲田法律事務所にて弁護士として活動をスタートする。
龍谷大学法学部非常勤講師、同志社大学法学部非常勤講師、同志社大学法科大学院アカデミックアドバイザー、
神戸大学法科大学院非常勤講師を務める。名刹寺院の顧問弁護士を多数兼任。
現在では関西テレビ「スーパーニュースアンカー」にも出演し、コメンテイターとしても活躍中。

対談の様子

山本:

先生は、有名な名刹のお寺や、仏事業界の担当顧問を多数されていますが、この業界の弁護士さんは意外と少ないのではないですか?

 

橋口氏:

どちらかと言うと珍しいですね。しかし、この仕事を通じ、
いろんな方との出会いでお仕事をいただいたり、宗教や仏事の事を考える機会もありまして、
もうちょっと、この分野で勉強していかなければならないと思っています。今は、
どの業界も変わっていかなければならないと思いますので、変わって良くなることを目指し、
きちんと仕事をして、きちんともらうべきものを頂いて、社会に還元していくことがそれぞれの立場でできたらきっと良くなると思いますし、
そういうことをやっていかないといけないと思います。

 

 

山本:

今、仏教や宗教離れが激しいとよく言われている中で、
お寺への観光客が不思議なくらい増えていると聞きますが、そのことに関してはどう思われますか?

 

橋口氏:

少なくとも住職の意向を想像するに、例え観光でも境内に入ったり、仏像に触れたりすることで、
仏教的な関心が少しでも芽生えたらいいと思います。修学旅行で訪れて、それ以来久しぶりに訪れたという人が、その時は集団で楽しく通っていただけだったのが、こんなにきれいで今度は隣のお寺に行ってみようと思うことが大事だと思います。
観光する人達も単純に観光ということではなく、そこに何か見出していると信じたいです。つまり、宗教を知るきっかけづくりになっていると思います。
本来はそうしたきっかけづくりに、お寺の内部の人も直接語り掛けるとかなどいろいろな取組みがあったらいいなと思います。
そうすると僧侶との距離が近くなるのではないでしょうか。ただ、法事でお経をあげていただくことだけが僧侶のお仕事ではないと思うのです。

 

山本:

先生は大きな宗教団体の顧問を多数されていますが、お寺さんで法的に大変だったことはありましたか。

 

橋口氏:

お墓は作ったけれども、その後承継されなくて、長い間、管理料も支払われず、
お墓参りにも来られないケースがよくあります。しかし、永代供養していますので、勝手に処分する訳にもいかないのが現状です。
それについては民法の定めはありませんので、何年間置いておかなければならないとか、どういう手続きをしていくのかが悩みの種になっています。
それに対しては、お墓を作る時に契約で管理料の支払いを怠った場合にはそれを解除できるようになっています。

ただ、実際その期間が経過して自動的に合祀してしまうと、遺族の遠縁の方が訪ねて来られて、合祀せずに遺骨を返してほしいというケースもあります。
ケースにもよりますがその時に現実的に返せないので、期間が十分経っているか、契約解除の書面が届いているかが重要となり、
お寺側が慰謝料を支払わなければならない場合やお寺の解除が有効と認められる場合もあります。それにはお寺の規模に関わらず慎重な対応が必要となります。
そういう一律な定めが決まればいいと思います。

 

山本:

さまざまなトラブルがある世の中で、日本も訴訟国家になりつつありますよね。
私たちの業界にもトラブルが増えてきていますが、弁護士さんとしてどういうことに気を付けておかなければならないのかを教えていただけないでしょうか。

 

橋口氏:

できることなら、打合せのときの商談メモをきちんと書いて、サインを頂いてお渡しをするといいと思います。
しかし、「聞いた聞いていない」をハッキリとするために、いちいち録音するのもおかしな話なので、
メモをとって確認してもらうためにサインを頂きお渡しする作業を丁寧に行い、それを習慣にしていくことが大切だと思います。
これは長い目で見てお客様も安心されますし、営業的にも将来的にも良いことで、書面化することをよくお勧めしています。

 

山本:

よく、他の石材店がお墓に彫る文字の打合せを、簡単に済ませるために、電話で打合せをおこなってしまい、
お引き渡しの時にもめている事例がありますね。

 

橋口氏:

御社では、字体を封書で送って下さいますよね。そういう意味では、
こういう字体がいいとか、字の大きさやもう少しこうして欲しいということも全部わかり、
丁寧なサービスで当たり前のことだと思います。そうでなければトラブルが起こっているでしょうね。

 

山本:

今、葬儀業界も訴訟が増えているようです。

 

橋口氏:

書面も「かっちり」したものでなくても、目の前で話をしていることを箇条書きメモにしてお渡しするとか、墓碑をどうするかについてはきちんと書類でお届けするとか、当たり前のことを丁寧に仕事されることがあればほとんどの訴訟は回避できます。
そういうことが若干いい加減になって訴訟が起こったりしていると思います。

 

山本:

だれも争おうと思ってやるのではないのでしょうね。

 

 

橋口氏:

遺族からするとお墓の購入を決定する最終段階で、その地にずっと、年3、4回、訪ねたいと思うことや、墓地の形がどうか、場所が便利かどうか、そこのスタッフの人達がどう受け答えして下さるか、また行ってみようと思えるかどうか。
そういうことを積極的に検討されているのではないでしょうか。

 

山本:

弁護士という仕事は、争いを受けることだけが本来の仕事ではないですよね。

 

橋口氏:

争いを受けることもありますが、それを解決したり依頼者が年老いたらどうなるかを含めて相談されている訳ですから、依頼者の人生を一生背負うというと言い過ぎですが、実践できるできないは別にして、そこは本来、できるだけ丁寧にすることが大切だと思います。

 

山本:

そういう意味では、弁護士さんでもセラピストの精神で対応していかないといけいないということなのでしょうか。

 

橋口氏:

私にはできないのですが、年老いた人達の後見人になって、「おばちゃん元気?」みたいな感じで訪ねて行ったりする真面目な若い弁護士がたくさんいらっしゃいます。私はとても立派だと思います。そのような信頼関係から、通帳の管理を許可を得てされている弁護士さんも多くいらっしゃいます。
虐待防止の仕事をされたり、それぞれの分野で特徴を出しておられているのでそういう人に目を向けて欲しいと思います。

 

山本:

これからの弁護士さんの世界はどうなっていくのでしょうか?

 

橋口氏:

弁護士に合格される人数がたくさん増えて、就職が出来ない若い人たちが増えて行くでしょう。
それはロースクールや大学院教育の定員とか方向性が誤っていたというのは簡単だけれども、それは合格しようとしている当該ロースクール生にとっては、関係のないことです。
何人受かるといって門をたたいたのに、受かったら就職がないなんて、そういった本質的な問題を含んでいることは間違いないと思います。

 

今後どうしていくかということを考えることは必要で、本来は弁護士だけに留まるだけでなく、
いろいろな企業や公務員、ときにはお寺であってもいいと思うのですが、そういうところに入っていくことも大切だと思います。
いろんな意味でのサービスや法的な判断を調べたり、助言できる専門家なので、いろいろな活躍場所があるはずだと思います。私も16年、弁護士をさせて頂いて、
そういう意味では古いタイプの弁護士で、弁護士事務所に就職してその事務所でコツコツしていくタイプではありましたが、今は募集がないので大変です。
うちの業界も変わらなければならないと思います。

 

山本:

ところで、先生はお墓は必要だと思われますか?

 

橋口氏:

お彼岸やお盆の都度にお墓へ行くことも大事だけれども、ふとお墓へ出向き、花を手向けてちょっと手を合わせるだけでも話をした気分にもなるし、そういった意味ではすごく大事だと思います。
そこに行けばいつでも話ができると毎日思っているわけでは正直ないけれど、ふとした時に帰れる場所として必要だと思います。

私は、たまたまご縁を頂いて自宅と近いところで建てることができたので、いい場所で意気込まなくてもお墓へ行けます。
そういう意味では立地も大事だと改めて思います。
弊社は平らなところでバリアフリーなのでそれも大きいかもしれないですね。お墓を作るときに山から見下ろすこともひとつの考え方ではありますが、年をとると足腰が悪くなりますし参る方から考えると、平坦なところにあるお墓の方が行きやすいですね。
なかなかそういうところを取得して開発していくことは難しいと思いますが、需要はあるでしょうね。

 

山本:

お墓を販売していまして、「今はまだ具体的には考えていない」と言われることがありまして、
それは、お骨をお墓に入れるのはいつまででもいいと思われている方がいらっしゃるのですが、墓地埋葬法ではいつまでもいいということはないですよね

 

橋口氏:

墓地埋葬法では、亡くなられてから12週間で埋葬しなければならないと決まっています。
墓地埋葬法は、公衆の安全衛生を守るという法律になっていますので、大切な方をずっと御自宅で安置しておきたいという気持ちもわからなくもないのですが、
建前としては期間の定めがあります。ただ、その期間が延びても法的に罰則はないので、実情は構わないという事になってしまっています。

 

山本:

お骨を電車の棚の上に置き忘れたり、わざと置いて行く場合などは法的にはどうなるのでしょうか?

 

橋口氏:

引き取りに行きにくい状況もあるのでしょうが、すでに荼毘にふして骨自体になっていれば、
いわゆる死体遺棄罪や損壊罪には当たらないです。ただ宗教感情には反しますが。

 

山本:

宗教離れやお墓は要らないという声も聞かれ、宗教や宗派にとらわれたくない無宗教という人が多くなっているのですが、
一方では、何か供養する形のものが欲しいという。

 

橋口氏:

「葬式は、要らない」という本も売れましたしね。何か形の変わった宗教心みたいものはあると思います。
そういうなかで仏教者や宗教者がどういうメッセージを出していけるのかが大切なことだと思うのです。宗教離れなのか道徳離れなのか、いろんな意見がありますが、統計をとっても本当に日本では無宗教の人が多いのです。それはクリスマスや結婚式はキリスト教、お葬式は仏教ということで、
まじめに自分を問い詰めたら宗教とは何なのか?という発想になってしまうのでしょうね。
しかし、その感覚はいろいろなものを認める仏教の価値観にそんなに外れているとは思わないですね。

むしろ形式的なことにこだわり過ぎる宗教者に対する不信が、今の宗教離れを加速していると思います。
ご承知の通り明治時代に仏教が政治的に弾圧を受けて、それまでの多くのお寺は、禅宗は1つの場合があるけれど何々宗という一つではなく、教義がいろいろあったので、天台宗と禅宗などを兼ねていたお寺さんもありました。宗派を変えるということは別に何ともなかったです。
ただ、江戸時代にお寺は戸籍の担い手になったので、一般の方々はある寺をあてがわれてしまって、それが檀家制度の始まりになりました。
例えばお寺自体はずっと真言宗でというわけでなく、多くのお寺は真言宗と天台宗があったけど、明治時代に天台宗を選ばれた選ばされたという歴史があります。
それからすると本来、どの宗派がどうなのかということは、ナンセンスというのは歴史的には正しいと思います。

宗派の違いで法義が違うことはあるけれども、僧侶の方々の話を聞いてみたいとか、一度座禅をしてみたいとか、あるいは写経をしてみたいという気持ちはみんな何となくあると思います。そういう静かなブームがあるので、途絶えることはないと思いますが、そういうなかで仏教者や宗教者がどういうメッセージを出していけるかが大切なことではないのでしょうか。葬式だけが仏教ではないことは正しいと思うけれど、最後、葬式の時に生きた世界と死の世界をちぎるというかそういった役割を与えられたことは大事な側面であると思います。
葬式仏教が悪い言葉というように使われるのはよくないと思いますし、みんなが集って話をして花を咲かせるということは大事なことだと思います。
そういう意味では積極的に死をとらえていかなければならないと思いますし、最近あまりにも悲惨な事件とか孤独死の事件を聞くと、
命を安く扱っているのではないかと思ってなりません。

 

山本:

これからは信頼のビジネスをやっている会社しか残らないと思うのですが、
最後に先生から私たちの墓石業界へのご意見を伺いたいのですが。

 

橋口氏:

墓石を扱われる会社は、ただお墓を売るだけではなく、亡くなる前のケアの問題であったり、
亡くなっていく人がどう弔われたいかということをきちんとアドバイスできる立場が必要になると思います。また、病気をどうコントロールするなどお医者さんの世界との関係や、保険をどうするか、相続をどうするかなど、生きている時に考えておきたい諸問題を一緒に考えられたり、適切な立場の人に紹介できたりとかの複合サービスがあって、「こんなことも教えてくれるんだ」というサービスができる場所だと思います。そして、最終的に遺族の方々が、この墓地を選ぶということになれば、たぶんそういう墓地には毎年たくさんの方がお参りに来られることになるでしょう。何となく気に入って購入したのとは違って、私は墓石業界に求めていることが大きいかもしれませんが、そういうビジネスの展開をしていただくと、墓石を売るだけでなく、仕事の未来があると思います。

 

山本:

大変参考になるご意見を最後にいただきました。本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。