著名人との対談

VOL.8

垣内俊哉社長 × 山本一郎

障害は街中の段差や階段なのであり、変えていかなければならないのは社会の環境やサービスなのです。

垣内俊哉社長 × 山本一郎

対談場所:株式会社ミライロ

DIGEST

今までの考え方のバリアフリー、ユニバーサルデザインというのは、各都道府県や国が定めた法律、
条例に沿って作るだけのものだったので、法律や条例のレベルでは悪いものを作らせないかも知れませんが、良いものは作ることが出来ませんでした。
高齢者や障害者にとって快適性、利便性、安全性というものは何かを、私たち障害のある人間の視点を持って、
より使いやすく快適なものを世に広めていきたいと思っております。

対談相手のご紹介

垣内俊哉社長 × 山本一郎

株式会社ミライロ 代表取締役社長

垣内俊哉

toshiya kakiuchi

2008年 立命館大学経営学部入学
2009年 創業。国内のビジネスコンテストで13の賞を受賞
2010年 大阪に移転・株式会社ミライロを設立
2011年 近畿地区人間力大賞を受賞

生まれつき「骨形成不全症」という骨が脆く折れやすいという魔法にかけられ、車椅子での生活を送っている。
大学2 回生の時に、自身の経験を元にバリアフリーマップ制作事業を立案。事業アイディアが多くのビジネスプランコンペに入賞し、国内で13の賞を受賞するなど高い評価を受ける。
2010年6月、株式会社ミライロを設立。バリアフリー・ユニバーサルデザインのコンサルティングを主な事業とし、関西の教育機関や商業施設の施設改修や、ホテルや結婚式場の接客指導を手がけている。

対談の様子

山本:

今までの墓地や霊園は通路の幅がせまく、階段を上らないとお墓参りができないという具合に、高齢者や障害者に配慮がなされてなく、
バリアフリーに対してあまりにも無頓着過ぎていました。これからの時代は、そういう訳にはいかないと思うのですが、垣内社長の会社では、
学校などの教育機関から商業施設やテーマパークなどのレジャー施設、そして結婚式場や葬祭会場まで幅広く、バリアフリー化の実現のために、
ユニバーサルコンサルティングというお仕事をされておられます。垣内社長から見て、これからの霊園や墓地に必要なものとは何かをお話しいただけたらと思います。

 

垣内社長:

私たちの会社が目指しているのはバリアフリー、ユニバーサルデザインを広めていくことなのですが、
とりわけ日本は類を見ない早さで超高齢社会を迎えようとしており、高齢化先進国である日本は、
バリアフリーやユニバーサルデザインにおいても先進国でなければいけません。先進国であるからこそ日本の製品、
日本のサービス、日本の建物、そして、日本のお墓、霊園はバリアフリー、ユニバーサルデザインが進んでいると世界から評価され、
お手本となるようなことをしていかなければなりません。

 

 

そうした中で、今までの考え方のバリアフリー、ユニバーサルデザインというのは、
各都道府県や国が定めた法律、条例に沿って作るだけのものだったので、法律や条例のレベルでは悪いものを作らせないかも知れませんが、
良いものは作ることが出来ませんでした。高齢者や障害者にとって快適性、利便性、安全性というものは何かを、私たち障害のある人間の視点を持って、
より使いやすく快適なものを世に広めていきたいと思っております。

 

山本:

ちょっと話はそれますが、私は世界一きれいなお墓が建てられている国はスイスだと思っています。
スイスのお墓は美しいと他の方からお聞きして、2回ほど視察に行ってきたのですが、なんと驚いたことに100年前に設計されていた霊園がバリアフリーだったのです。
段差がなく、通路も広く、風景とお墓が上手く調和していて、当時の日本ではお墓と言えば暗くて怖くて、通路も10センチほどしかない狭いところに作っていたので、
スイスのお墓を私は見てこれが同じ人間が作ったのかとビックリしたものでした。

 

垣内社長:

昔と違い、今の日本では障害者にとっては大変便利な世の中になりました。
例えば通路ひとつをとっても幅が広くなり舗装もされていますし、駅にはエレベーターが当然のように設置されています。
今、日本は超高齢社会を迎え、高齢者の人口は3000万人を越そうとしていて、障害のある方も800万人近くで、ベビーカーを押すお母さんの数は540万人、
これらすべての方を合計すれば、全人口の三分の一にもおよびます。

ご高齢の方も、障害のある方ももちろんですが、家族、友人、恋人がいる訳ですから、バリアフリー、ユニバーサルデザインは、
当事者だけでなく、そのまわりにいるありとあらゆる方が求めています。もちろんご先祖様を偲ぶ場所であるお墓に行きたいと思うのは、
ご高齢の方も障害のある方も同じです。

私のご先祖様のお墓は岐阜県にありますが、私はそのお墓の前までは行くことができません。
お墓は高台にありまして、車いすの私ではお墓まで上がれないので、私はご先祖さまに会いに行き、お墓の前で手を合わすことができないのです。

 

山本:

確かに昔と比べれば、障害者、高齢者の方にとっては快適になってきたとは思いますが、
すべての駅にエレベーターが設置されている訳でもありませんし、歩道も狭く、車道と分離されているところはそんなに多くはないと思います。

 

垣内社長:

バリアフリーは大切なことだということは、皆さんは理解していると思います。
しかし、山本さんの言われる通り、まだまだ未整備なところも数多くあります。では、何故出来ないのでしょう。
それは、バリアフリーというものに経済性、継続性が伴わないからだと私は考えています。例えばゴミ拾いのボランティアの話をしますと、
ゴミを拾うという行為は誰もが良いことだと思っています。しかし3、4回参加するとゴミ拾いに行かなくなるという統計がありまして、
それはなぜかと言うと社会性はあるけれど、経済性や継続性が伴わない行動であり、バリアフリーに関しても同じことが今までは言えていました。

 

山本:

ゴミ拾いも、バリアフリーも誰もが良い事であるということは解っていますよね。

 

垣内社長:

しかし、先ほどもお話したように、これからは超高齢社会に伴い、3000万人を超すご高齢の方と800万人近くいる障害のある方、
ベビーカーを押すお母さんなど、このような移動弱者とされる方々がたくさんおられる中で、みなさん、外に出たいという気持ちがありますので、
多くの方々が足を運べる環境を作ることは経済性、継続性が伴ってきます。

例えば町中には飲食店がたくさんありますが、車いすで入店できるお店は全体の5%しかありません。
消費者にとってはお店の選択肢が少ないという側面があるのですが、事業者側から見ればリピーターになってくれるという良い部分があります。
バリアフリー、ユニバーサルデザインはあと20年もすれば、当たり前の事になっていますから、そこには話題性はありません。

しかし、今はまだ5%しか対応していない訳ですから、事業者側からすれば今こそがバリアフリー、
ユニバーサルデザインを取り入れることで経済性を伴った取り組みにするチャンスとなるのです。

 

山本:

私はハピネスパーク牧野霊園とハピネスパーク交野霊園という2つの霊園を作ったのですが、どちらもバリアフリーを取り入れました。
ひとつは平坦地だったので、比較的に工事もスムーズでしたが、もうひとつは山の麓ということで、高低差がありました。
当初は工事費用面から霊園に段差を設けるという話だったのですが、出来るだけ平坦にしたいという私の考えを工事業者は取り入れていただき、
駐車場から霊園内まで段差なしのバリアフリーが実現しました。

 

垣内社長:

すばらしいですね。ご高齢の方や障害のある方に選ばれている理由になる訳ですね。
しかし、いずれは当然な取り組みとなってしまいますので、今の時代だからこそ価値のあるものだと思います。
社会的な取り組みでもありますので、山本社長の想いをもっともっと進めて頂きたいです。

 

山本:

ありがとうございます。今後ともいろいろとご指導下さい。

 

垣内社長:

こちらこそ、ぜひお願いします。
今、私たちはホテル、結婚式場、金融機関、スーパーなど、ありとあらゆる場所でバリアフリー、ユニバーサルデザインのご相談をいただいております。
霊園もユニバーサルデザイン、バリアフリーに配慮をしているとなれば、日本で初の取組みとなりますので、いろんな場所でユニバーサルデザイン、
バリアフリーの取組みが進んでくると、みんなが「やらなきゃいけない」と思えるきっかけになるのです。
ぜひ、霊園にもユニバーサルデザインを取り入れて下さい。

 

山本:

ぜひ、前向きに検討していきたいと思います。その中で、私たちの会社では年に一度、車いすを最寄りの役所に寄付させて頂いておりまして、
7年間続けました。今後もこのような取り組みを続けていきたいと考えていますが、さらなる取組みとして、垣内社長より何か提案などはないでしょうか。

 

 

垣内社長:

大変すばらしい取組みをされておられますね。今後ともぜひ続けていただきたいと思います。
その中で私は何よりも大切なことは、障害のある方に声をかけることだと考えています。今の日本社会では、高齢者や障害者への対応は、
無関心な人と過剰に配慮する人とに、二極化しており、さりげない配慮をできる中間層の方々が少ないのが現状です。

過去に、こんなことがありました。町中で白杖をついた全盲の方が移動で困られていたので、なにか声をかけなければと思いつつも、私はなにをしたらいいか分からず、
ついに声をかける事ができませんでした。少し時間が経ち、ようやく私の他に気づいた方が全盲の方に歩み寄っていったかと思うと、
全盲の方の手をぐいぐいと引っ張って移動されました。
その時、私は全盲の方があまりうれしそうでないように、むしろ嫌がっているようにすら見えました。
例えば、私自身も、車いすに乗っているため、町中で勝手に車いすを押されることがあります。私は車いすバスケットボールやマラソンをやっていましたので、
自分で車いすを漕げるのですが、無断で車いすを押してくる方にしてみれば良かれと思ったことなのでしょう。ただし、良かれと思ったことでも、
私にしてみれば勝手に車いすを押されることは、単なる親切の押し付けなのです。これはホスピタリティーでも、おもてなしでもありません。

一方で、何も声を掛けない方は無関心のように思われるのですが、実は、どうしたらいいのか分からないのです。
障害者や高齢者の方にどうすればいいのかを知らないのです。だから私も全盲の方に当初は声を掛けられなかったのです。

だから、まずはそのような方々の事を知っていくことから始めなければいけません。そのためにも、まずは声を掛けることが大切なのです。
「お手伝いする事はないですか、何かお困りの事はないですか」このようなきっかけづくりが必要なのです。街で見かけた時は一歩踏み出して声を掛けてみて下さい。
ホテルやスーパーでも、これから声を掛けるような場面が増えてきます。このように障害者や高齢者に歩み寄る姿勢が大切だと思います。

 

山本:

もっと障害者や高齢者の方々に声を掛けていかなければならないですね。
声を掛ける人が増えていく社会へと変わっていかなければならないのですが、
私たちはどのようなことを障害者や高齢者の方々に意識をしなければならないのでしょうか。

 

垣内社長:

まず、社会全体で、「障害者(高齢者)は弱者だから守らなければならない」という認識を改めなければなりません。
例えば日本人は100人いれば10人が左利き、90人が右利きなのですが、改札の切符の投入口は右利きの方に合わせて設置されています。
左利きの人は切符を持ちかえるか、無理な姿勢で切符を投入口にいれなければなりません。しかし、左利き用の改札機は見かけませんよね。
それは多数派である右利き用に作られているからなのです。

同じく歩ける人が多いから階段や段差があり、目が見える人が多いから点字ブロックが無かったり、という具合に、
少数派の人は多数派の人に合わせた環境、サービス、制度に、不自由をしたり、苦労をしているというだけの話なのです。
よく「ハンデをお持ちで大変ですね」と言われるのですが、私は障害を持ったという意識は全くないのです。障害は街中の段差や階段なのであり、
変えていかなければならないのは社会の環境やサービスなのです。

 

山本:

今のおっしゃったことは学校教育にも問題があるかと思います。
「障害者は助けてあげなさい」というただの押し付け教育がなされてきて、どうして助けなければならないのかという問答がなかったことが原因ではないでしょうか。

 

垣内社長:

おっしゃる通りですね。私が中学生の時、給食当番でみんなの机の上に牛乳パックや冷凍みかんを置いていく作業がありました。
ある日、私は給食当番をサボって、友達と遊んでいたのですが、私は先生に怒られませんでした。どうしてかと言うと「俊哉君は障害者だからいいんだよ」と
先生はみんなに言ったのです。クラスの同級生は「障害者は給食当番をサボってもいいんだ」という間違った認識をしてしまったのです。
先生が言うことは正しいのですから、子供達もそう思ってしまうのです。ここでも障害者は可哀想という間違った認識をしているのです。

 

山本:

福祉先進国であるノルウェーやフィンランドでは古くから社会福祉に力をいれており、
障害者や高齢者は健常者と同じ扱いをするという教育がされていますよね。日本もそろそろ変わらないとダメな時期になってきていますよね。

 

垣内社長:

今の日本より福祉先進国としての取組みが早かっただけで、
100年前ではヨーロッパの北欧の国々でも障害者とは結婚をするなとか、子供を作るなとかという制度がありましたし、
60年前のナチス・ドイツでは障害者は真っ先に強制収容所に収監されていました。日本では平安時代から室町時代までは障害者は穢れとされ、
今日まで障害者は社会参加の機会を奪われてきました。

しかし、日本も現在になっては価値観が成熟し、同時に押し寄せる高齢化の波に対応するため、バリアフリーやユニバーサルデザインを取り入れ、
高齢者や障害者に対応できる環境やサービス提供に取り組まなければならないのです。

 

山本:

最近では駅にエレベーターが標準で設置され、スロープが設置されるなど、
日本も障害者や高齢者に対しての環境やサービスも10年、20年前とは随分と違ってきましたね。

 

垣内社長:

まずは障害者が外に出られるようになりました。外に出られるようになったということで、
人とふれあえることができるようになり、学ぶことも働くこともできるようになってきました。お金を持つことで消費として、
施設を利用し、物を買えるようになったのです。これからもますます障害者の生活水準は上がっていきますので、
企業は多様な方々への配慮をしなくては時代遅れとなってしまう可能性があります。

そして、この話は障害者の方に限った話ではなく、ご高齢の方に対しても同じことが言えるのです。年をとれば誰しも、体が不自由になります。
障害者には耳の不自由な方、目の不自由な方、私のような肢体不自由の方がおられるのですが、
このような障害者のニーズを複合的にお持ちになられているのが高齢者です。障害者のために配慮した取り組みは、実は多くの方々のためになっています。

私の会社には、よく結婚式場からご相談を頂くのですが、新郎新婦方が車いすを利用されているケースはもちろんのこと、
参列させたいおじいちゃん、おばあちゃんが車いすで会場まで来てほしいからというニーズでユニバーサルデザインを取り入れたいと
お考えになる企業さんがおられます。お客様のために何かをしようと思っている企業であれば、このような姿勢や感覚が求められるのではないかと思うのです。

 

山本:

すばらしい取組みですね。今までの墓地や霊園は段差があり、車いすが通れず、
水場までの距離が遠いという悪条件な環境が多かったのです。そんな折、今のハピネスパーク牧野霊園を設計する時に、
私は何か高齢者の方々に配慮した霊園を作りたく、例えば水汲み場から各自のお墓までの距離は50歩以内で歩けるように霊園を設計しました。

 

垣内社長:

それはとてもいい取組みですね。

 

山本:

なぜ、このような考え方ができたかというと、私の知り合いの先輩がお墓参りに行かれた時に、
水を運んでいる途中で階段から転倒し、肋骨を折ってしまいました。その先輩が私に、「霊園を作るなら水場をたくさん作った方がいい、
高齢の方に配慮をしなくてはならない」という助言を受けまして、実際に私はバケツに水を入れて歩いてみまして、
どれ位の距離を歩けば不快になるのか実験をしてみたところ、私は50歩までなら我慢ができるかなと思いまして、
私どもの霊園では50歩以内に水汲み場を設けてみたのです。

 

垣内社長:

このような取り組みはこれから、当然になってくるでしょうし、他のお手本にもなるでしょう。
そしてこのような取り組みが霊園のスタンダードとなり、私としましても一当事者として、とてもうれしく思います。
このような山本社長の取組みをもっともっと進めて頂きたいですね。

 

山本:

本日は大変勉強となるお話しが聞けました。お忙しい中、誠にありがとうございました。