著名人との対談

VOL.3

歌一洋先生 × 山本一郎

「これからの時代は、心から湧いてくるホスピタリティーが必要です。」

歌一洋先生 × 山本一郎

対談場所:歌一洋建築研究所

DIGEST

伝統や文化、習慣や慣習、あるいは四季の移ろいなど、日本人は古( いにしえ) より多くの先人たちに学び、
現代に力強く生きています。しかしともすれば古い慣習に縛られたり、伝統や文化の風趣に浸る心のゆとりを失ったりしがちなのも事実です。
弊社、山本は常日頃より宗教人や会社経営者、評論家、文化人、タレントなど幅広い人脈を持ち交流を深めています。
またこれらの人々との対話を「いにしえの対談」として企画し、定期的に行っております。

対談相手のご紹介

歌一洋先生 × 山本一郎

近畿大学文芸学部教授 歌一洋建築研究所主宰

歌一洋

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近畿大学文芸学部教授 歌一洋建築研究所主宰

徳島県海部町生まれ。1970年近畿大学理工学部卒、1977年に歌一洋建築研究所設立(一級建築士事務所)。
1995年より近畿大学文芸学部芸術学科助教授、現在同教授。2001年から四国88ケ所ヘンロ小屋プロジェクトを推進している。空海(弘法大師)開創の「四国八十八ケ所」の巡礼の道1400kmを歩き、お遍路のための休憩仮眠のできる小屋を88ケ所に十数年かけてつくるプロジェクトで、ボランティアで実施されている。

対談の様子

山本:

歌先生はお遍路小屋をボランティアで作っておられるじゃないですか、今、この業界で仕事をやらしてもらって思うんですけど、
宗教離れがすごいですね。
そうは言っても「四国八十八ヶ所お遍路巡り」ってものすごくブームになってますよね。その辺りについて、お墓や宗教のことについてお聞かせいただきたいです。

 

歌先生:

きっかけはまず、私は徳島の南の方の出身ですので、お遍路さんがよく小さい時に来ていたんですよ。

昔は遍路道から外れてもよくいろんな家に訪ねていったんです。家は遍路道沿いじゃないですけど、結構来てましてね、それで、来たら庭に来て拝んでくれるんです。だいたい3~4分拝んでくれて、家にある物、米とか場合によっては5円とか10円とかお金もあるし、果物もあるんですけど、という事で、僕も親がいない時はよくやってましたね。米びつから米を袋に入れてあげるんです。それが要するにお接待と言われるのです。もちろん道端でもいろんなお接待はあるんですけど。お遍路さんはそれを貰って、全然お金なくても廻っていけます。そういう事をやってたんでね。小さい時は。あんまり意味はわからなかったので、ただ、親の真似をしただけです。お遍路さんに対しては必ず。
その後、大阪で建築事務所を開業してから、徳島へ帰る度に、やっぱりお遍路さんの白装束が歩いているんですよね、国道沿いとかを。それをみる度に良い尊い何かを感じてね。そのうちに、四国のお遍路さんのおもてなしとか、支えあいの文化が凄く貴重だと思ってきましてね。もう一千年以上続いている。だんだん解ってきたんです。それで何かお遍路さんに協力して、また将来大事な文化だから、世界中にない珍しいこととして、それで繋がっていったらいいなって思ってましてね。それを思ったのが二十数年前ですね。

この頃は、お遍路さんの休むところが少ないもので、昔は軒の下とか、お寺とかあったのですけど、宿坊があるところしか今はお寺でも駄目なんです。ましてや、こういう時代になったら、軒の下とかは一般の人は防犯上とかの理由で敬遠されがちで、「休むところがあったらいいな」と、チラッと聞いたんもので、それだったらという事で、建築、設計の仕事を活かして、小屋だったら簡単な設計ですから、そういう事で(お遍路小屋作りを)しようかと思ってました。

そして、空海(お大師さんですね。実はお大師さん言われてるけど、お大師さんの意味がわからなくて、ある時、空海がお大師さんだってわかったんですよ。まあ、お大師さんって空海だけではないんでしょうけど、四国ではお大師さんっていえば空海の事なんですよ。)に対して二十歳ぐらいから凄く興味があったし、その空海がだんだん凄いなって思ってきて、本を読んだりして、空海に対して大変勉強しました。

あと、ボランティアの方々が小屋作りのために、みんな集まって作るじゃないですか。地元の人たちが、ちょっとずつでも繋がりが出来たり、そういう様子を見ていたりすると「もっと面白くすることはできないかな」と思ったりもしました。(地域を)活性化するほどまではいかないけど、それを地元の人たちが、設計士さんに作ってもらったことによってお遍路さんのことを思い出してくれたり、作ったらお接待をしてくれるのですよ。お遍路さんが来たら話をしたり、お米をあげたりして、またこういうのが、形があり、目に見えるものなので、子供もその方が解りやすいですよね。小屋があった方が象徴的だから、お遍路さんを接待したり、お遍路さんが休む小屋と言ったら、お遍路さんへの意識も高まるじゃないですか。そういう意味もあって つくろうかなと思ったわけですよ。

 

 

 

山本:

今、先生 全部で(お遍路小屋は)何ヶ所ぐらい出来たのですか?

 

歌先生:

43ヶ所です。

 

山本:

もう43ですか。

 

歌先生:

完成したのがね。ただ89個、目指しているので、今10年たったのですけど、
43個出来て、あと7、8年で全部出来るかと思いますよ。最近(作るペースが)早くなってきてまして、協力してくれる人が多くなってきましたし、
土地も空いているところを使ってもらってもいいですよと言ってもらえますので、速いペースで見つかりつつあります。

 

山本:

それって先生、凄いことじゃないですか。

 

歌先生:

もともと十数年で89、もともと長いスパンで考えているんでね。
みんながボランティアでしょ。誰も無理しなくて作ってくれる。お金の意味でも。僕も無理していないし、お金も地域で集めてもらって、
10万しかないところは10万以内での小屋を作るし、タダのところはみんな手弁当で竹で作った小屋もあるし、もちろん5、600万かかった小屋ある。
地域の事情にあわせて設計している。いろんなパターンがあって、0円から多いところでは800万。でもそれはお金の問題じゃないんでね、
「みんなで作る」ということが大事なんで、その小屋の中で接待していただいて、その文化をつないでいくのが大事なんでね。形なんかはどっちでもいいのです。

 

山本:

宗教離れがある中でも、お遍路さんに来る人が年々増加していて凄いじゃないですか。先生はそれについてはどう思われますか。

 

歌先生:

今の時代、ややこしいですしね。目に見えないものを大事にしない風潮になってきているでしょ。
物だけに走っていて、経済効率一番で、逆にそれに対して「それはイカン」と思ってきた人が増えてきたんじゃないですか。
それと年齢的に団塊の世代がどんどんリタイアしていっているでしょ、仕事を辞めて。そういう人がどんどん行きだしていますね。
元気じゃないですか、60過ぎてなんて。昔と違ってお遍路さんも積極的に行く人が多くなってきて ポジティブに今後の人生をどうしようとか、
今ある人生を見つめあう。四国行くと、やさしさというかお接待という文化が残っていて、おばあちゃんとかおじいちゃんがね、
50円くれたり100円くれたり車乗っていって下さいとか、お遍路さんにはやさしいんです。もともと四国の人は情があるんでね。
だから初めて言って500円もらうとみんな戸惑うのです。だけど一切、見返りはもとめなくてお遍路さんをやっているんです。
しかし、今はそういう気持ちがないじゃないですか。減ってきているでしょ。昔はあったのですけど、それが一番尊いことですよね。
お遍路さんはそれに支えられて廻っていくんです。この間、僕も歩いたんですけど、物を貰わなくても歩いていてしんどくなってきたときに、
子供さんとかが「おはよう」言ってくれたらものすごく元気がでるんですよ。声をかけてもらうだけ、僕がこの間、行って経験したのは、
ニコっとしてくれるだけで元気がでましたね。これは行ったことが無い人には分からないですね。挨拶してくれたり、
ニコっとしてくれたりするのも優しさなんですよね。これもお接待なんですよね。ちょっと頑張ろうかなとなりますよね。
ただ、今はそういう事が減ってきているので、そういうのを求めていく人もあるのかも知れませんよね。殺伐としているから。
ちょうど年代的には増えているのかもしれませんね。

 

 

 

山本:

日本人も捨てたもんじゃありませんね。

 

歌先生:

もともと、日本人はおもてなしの文化。世界中で一番優しいですよ。親切だし、こんな国はないですね。
しかし、日本人それを忘れてきたでしょ。50年60年で経済ばっかり向いてしまったから、それがちょっと落ち着いてきて、
これ以上右肩あがりならないのは分かってきているし、もうちょっと違うところにゆっくりなってきているでしょ。転換期だとも思うのですよ。

 

山本:

僕のお客さんでも、まったく興味がなかったのに八十八ヶ所に行ってハマった人がいましたね。

 

歌先生:

四国のお遍路文化の特徴とは「8の字」に循環するんですよ。気に入らなかったら何回でも廻れるのですよ。
例えばスペインとかは旅をすると「一直線」で終わりなんですよ。ところが四国のお遍路は何回でも気が済むまで廻れるんですよ。
それも一つの特徴なんです。だから行くたびに雰囲気が違うんです。

 

山本:

(お客様が)先生の造られた遍路小屋で休憩されたとのことで
「良かった。前回はこういう(小屋)のは無かった。」とおっしゃっていましたね。

 

歌先生:

そうですか。僕は10年前に第1号を作ったんですけど、ここ2、3年前からいろんな人が造り出し始めたということで、
それはすごくいい事で、僕がこういう活動をしていることをメディアに紹介してくれたことがきっかけで「私もやってみようかな」と、個人で簡単なものを作ったり、
国にもお遍路小屋ではないですけど国道に簡単な小屋を作ったりと、だからこういうことが四国中に何千とできれば世界の名物になるかもしれませんね。

 

山本:

先生の造るお遍路小屋にはデザイン的な特徴がありますよね。

 

歌先生:

地元の考えに合わせて作るので、一つずつ全部デザインが違うでしょ。だから面白がってくれるんです。

 

山本:

先生とこの間お会いした時に二十数個だったのが43個になったということで、もう半分ですよね。

 

歌さん:

もともとこんなに作る事を予定してなかったので、早いのかどうかは分からないのですが、でも、半分近く出来たということは、
やっぱりお遍路さんのためにだから意識が高いのです。また地域の人も、お遍路さんのためやったら手弁当で手伝おうとか、1万円寄付しようとか、
100円寄付しようとか、宣伝してあげようとか、そういう人がでてくるのですね。やっぱり四国のお遍路文化が根ざしているんでしょうね。僕ら前後より上、
50代60代より上はね、すごく根ざしていますね。と思いますね。気持じゃないですか。お大師さんを尊敬していますからね。
お大師さんとお遍路さんのためやったらということです。凄いことです。世界中にないと思います。無償ですしね。

 

山本:

僕の知っている車屋さんが高知県にあるんですけど、新入社員が入ると研修があって八十八ヶ所に目の見えないおじいさん、
おばあさんと一緒に4日間一緒に過ごすんです。
目の見えない人達にどうやってコミュニケーションを伝えるのかということをやっているそうです。八十八ヶ所の何か所かですがお遍路を廻るのですけど
、その中の朝の挨拶で、相手の名前を言わないと向こうは分からないんですって。顔がわからないから。
「○○さんおはようございます」と言わないとダメでしょと怒られるところからから始まって、
いかに自分達が恵まれた環境で生きてきたのかということ知らせてから仕事に入らすらしいですね。

 

歌先生:

私はいつも大阪や四国の地元企業の社長にも言っているのですが、従業員に一週間でも有給を与えてお遍路さんに行かせて下さいと
提案しているんです。その中で、高知県にある、とある信用金庫がお金を出してくれて5個小屋を作ってくれたんですよ。その理事長さんもお遍路さんに
まわっていたんですけど、その理事長さん曰く、新入社員を自分達の作った遍路小屋に何日間行かせてお遍路さんをご接待するそうです。これこそ社員教育ですね。
接待する方も、される方もうれしいし、良い活動とも思います。この信用金庫の理事長さんが他の信用金庫さんに声をかけてくれて、遍路小屋を作ってくれたり、
コンビニさんも一年間募金活動を通じて参加してくれたりしてます。その他に行政も土地を提供してくれたりしてます。

 

山本:

とても素晴しい活動ですね。ところで僕らの業界も不景気でお墓も売れなくなってきていると言われているのですけど、
その中で売れているところとそうでない所と極端になってきていて、お寺さんも同じような傾向があるようです。良いお寺と悪いお寺と分かれてきていて、
そのようなことになるのはお客様目線というのが欠けてきているのかなぁと思うのですが。

 

歌先生:

お店でもお寺でも、オーナーや従業員の気持ちじゃないでしょうか。お寺も我々の目に見えないところで、
きちんと掃除しているところはキッチリしています。参拝される方も多いしね。でも悪い寺は自ら掃除をしなくて人にやらしたりして、そんなのはダメですね。
目に見えないところでちゃんとするということは、サービスではなくホスピタリティーだと思うのです。サービスは商売上、相手の事を思って
「一生懸命やっていますよ」という感じでしょう。それはそれでいい事なんですけど、例えばトイレがキレイに掃除されていたりすると、
参拝に来られた方が感激するじゃないですか。そういう事で、喜びを感じてもらえるようにすることなど、何でもあると思うのです。
物は極端にはあんまり変わらないですよね。本当のホスピタリティー、「おもてなし」とは目に見えないところで、心がけというのが出ますよね。
お墓でもちょっと汚れていたりしていて、それをさりげなくお掃除してあげると、大抵の人は喜んでくれますよね。こういうのが大事だと思います。

 

 

 

山本:

おっしゃる通り、汚いお寺は汚いですからね。

 

歌先生:

住職さんの気持ちが表れていますよね。お寺とか神社と言ったら心を洗われなくてはいけない場所ですからね。

 

山本:

日本のお墓って人里離れていて、暗くて怖い所が多いじゃないですか。ところが、
ヨーロッパのお墓をたくさん見てきたのですが、キレイで明るいんですよね。

 

歌先生:

日本って忌み嫌うという考えがあったのでしょうか。仏教の教えは違うのですけどね。

 

山本:

ところで、今の家族形態は「家」から「家族」に変わってきたのでちょっと変わった洋型のお墓が建てられるようになってきたのですが、
「昔は親戚がうるさい」とか、「○○家の墓はこういうものだ」とかだったのです。ところが最近はそういう親戚が出て来なくなってきました。

 

歌先生:

そういう意味では商談はやり易くなったのでは?

 

山本:

その代わり、契約までの時間が掛るようになってしまいました。今までのお墓は規格品が多くて、
何パターンの中から選んでもらえればよかったのですが、今は自由に選べるようになったので、営業する時間が掛るようになったのです。
でもこれが本来の姿ではないかと思うのです。さっきお話したホスピタリティーという事を考えると、お客様は「お墓をひとつでも真剣に考えたかった」
という考えを、我々業界はないがしろにし過ぎたのではと思うのです。

 

歌先生:

そりゃそうでしょう。一生に一度のものですし、我々の家と一緒ですよね。

 

山本:

だから、先生の活動しているお遍路小屋でも加速度的に広がってきているのは、
やっぱり日本人って、そういう心を持っているんだなぁと思いますね。

 

歌先生:

そうですね。そういう心を見直すというのか、気が付いてきたのではないかと思いますね。
だた、そういうことを言うだけでは分からないから、何か形にするほうが良いように思いますよね。その方が子供にも分かり易いですから。

 

山本:

今年は震災があり、日本はどうなるのかと言われたのですが、寄付金を集める活動がすごいではないですか。
こういう事って世界の中でも稀ですよ。ボランティアの人たちの数にしても。

 

歌先生:

それは、日本人は自然に対して、敬う心があるからではないでしょうか。
自然と共に生活をしていかなければならないと思っているので、だから自然に捨てられたらそれは仕方がないとあきらめてしまうのでしょうね。

 

山本:

話題が少しずれるかもしれないですけど、私1年に1回、仕事で中国に行っているのですけど、サービス業が全くダメなんですよね。
ただ、中国も富裕層の人は勉強してきているので、「物があって人件費が安くて、さらにサービス業を身につけてくると鬼に金棒となってしまう可能性が高いのです。
」というお話をある住職としていたら、日本と中国との違いとは「日本はサービス業ではなく、『おもてなし』なんだ」という事を言われていましたね。
「サービス業の上をいくのはおもてなしだから、中国はおもてなしという考えはないよ」
と言われていました。
ただ、「日本人もおもてなしを無くしてきているから、ここを解らないと会社は上へといけないので、心がけなさいよ」とも言われたのです。

 

 

歌先生:

よく解りますね。日本は先ほどもお話ししたように、ここが世界の中での一番凄いところなんですよね。
その点、外国は全然違いますからね。だからこれからの時代は本当に心からのホスピタリティー精神をもってやれる事が出来るもの。
特に日本は医療、介護などで世界にアピールしていったらいいのですよ。とても凄いことなんですからね。そして人間ですから世界どこでも通じるのですよ。

 

山本:

ところで、先生は大学で授業をされておられますけど、今の学生でお遍路さんに興味を持たれている方はいますか

 

歌先生:

少ないけど、いないこともないですね。1回、2回は現地の小屋まで連れて行って実習させています。
こういう活動をやっていることを分かって欲しいからね。

 

山本:

建築の世界にたずさわる方にはこういう事をぜひ知っていてもらいたいですね。

 

歌先生:

建築に限らず、若い人たちは、四国八十八か所を知らない人の方が多いですからね。
聞いたことはあるけど内容までは知らない人が多いのではないですか。だから学生にはこういう活動を話したり、
研修の課題に小屋づくり設計を取り入れています。こういう文化を大切にしてもらいたいのでね。

 

山本:

最後に、徳島に住んでおられて、今回このようなことに参加できてよかったですね。

 

歌先生:

建私の建築のテーマは「祈り」ということで、「人間が安らかに、心豊かに前向きにいけること」を祈りだと思っています。
こういう思いで設計をしています。小さい時からお遍路文化に馴染んでいたこともあって、今回のプロジェクトに参加が出来たと思うのです。
自分にとって良かったと思います。

 

山本:

大変素晴しいお話を聞かせていただきまして、本日はありがとうございました。