垣内俊哉氏 × 山本一郎
お墓のイメージをガラリと変える。
誰もが行きたくなる“明るく楽しい霊園”。
障害を価値に変える“バリアバリュー”の視点を活かし、企業や自治体、教育機関におけるユニバーサルデザインのコンサルティングを手がける株式会社ミライロ。今回、代表取締役社長 垣内俊哉氏に西鶴の2つの霊園「ハピネスパーク牧野」「千年オリーブの森(京阪奈墓地公園内)」をご覧いただき、弊社代表 山本との対談を行いました。
西鶴が手がける、ハピネスパークと千年オリーブの森。
垣内氏:ハピネスパークはいつ頃から始められたんですか?
山本:はい。2004年、大阪府枚方市の牧野に第1号となるハピネスパークを創りました。ハピネスとは“幸せ”。お客様それぞれの幸せを叶えたい、喜びに満ち溢れた霊園でありたいという想いから、ハピネスパークと名付けたんです。千年オリーブの森は、樹齢1000年のオリーブの木がシンボルの樹木葬専門霊園です。ハピネスパークと千年オリーブの森、現在計6つの霊園を運営しています。
(ハピネスパーク公式サイト:https://e-saikaku.co.jp)
法要施設・お客さまの休憩室として使用している電車内で対談。車内に設置されているポップコーンメーカーで作ったポップコーンを食べながら、リラックスした雰囲気で。(場所:ハピネスパーク牧野)
霊園は、どこもバリアフリー化されていない? ~ミライロIDアンケートから~
垣内氏:私の地元の霊園も全くバリアフリーじゃないです。車いすはもちろん、視覚障害のある方も一人では行けません。アンケートでは、墓地までのアクセス・敷地内の移動・墓のお掃除・トイレ利用の順に皆さん困られている。これは私自身も実感するところです。これらの課題に対して西鶴さんは一つひとつ解決策を提示されていると思います。
山本:多くの霊園を見に行くのですが、ほぼ段差だらけです。駐車場がなく、傾斜もすごい。20年以上前から、段差、舗装、階段の問題で「お墓参りに行きたいけど行けない」という声がありました。亡くなった方のために良いお墓にしたいと皆さん真剣に考えられているのに、作り手側がちゃんと提供してなかったんです。お墓は大切な家族が眠る場所であり、今を生きる私たちにとっては愛する家族に逢い、話をしに行くための場所。だから、誰もがお墓参りできるようにしたいと思ったんです。
園内のオストメイト対応トイレ。車いすユーザーの利用も想定し、十分なスペースを確保。
垣内氏:障害者はさることながら、高齢者も3,600万人を超えています。過去20年の比じゃないほどニーズが高まると思います。
山本:ハピネスパーク牧野は、フラットだから良いとお客様に言われます。駐車場も広くて、トイレも広くてきれいだと言ってもらえます。弊社は業界の常識の反対をやっているだけなんです。どこも、トイレは汚い、臭い。開けた瞬間、我慢するものばかり。これまでの常識をくつがえしたいんです。
垣内氏:オストメイト(人工肛門・人工膀胱を造設した方)対応トイレの設置は、お客様に寄り添われてるからこその着想だと思いました。
山本:障害者のトイレは、どこへ行ってもグレー色。以前、垣内さんが「私たちは別に病気じゃないのに」と言われていて、なるほどなと参考にさせてもらいました。
垣内氏:ハピネスパークのような、きらびやかなトイレは見たことがないです。鬱々とした感じのする従来のものではなく、テンションが上がるバリアフリートイレっていいなって思います。
お墓のマイナスイメージをくつがえす。
山本:ハピネスパーク交野をはじめる時、近隣住民の反対運動があったんです。完成しているハピネスパーク牧野の写真をお見せしてもなかなか伝わらず「気持ち悪い、怖い」と言われました。
垣内氏:気持ち悪い?
山本:肝試しをするような墓地のイメージが強い。写真をお見せしても理解してもらえませんでした。そんなある時、一番反対されていた方が牧野に来られたんです。そして「これなら賛成する」と言われました。実際に見たら違ったと。
垣内氏:写真だけでは分からないのかもしれないですね。
山本:マスメディアで取り上げられると「もっと早く来たらよかった」と言ってもらえるんです。アンケートを見ても、お墓というマイナスのイメージが強烈。ここが悔しくて、戦っていきたいです。
垣内氏:暗い怖いというイメージを、西鶴さんは一気に変えていかれてますね。
山本:創業時、お寺の墓地を販売していましたが、夕方以降は本当に怖かった(笑)。暗くて怖い所には誰も来てくれない。だから明るくしました。影をできる限り作らないようにしてるんです。
なぜ、オリーブの木の樹木葬?
山本:樹木葬は、桜の木の所もありますが、桜って寿命が60~80年と言われているんです。
垣内氏:意外とそのぐらいなんですね。
山本:桜の花は約1週間で散ってしまいますし、80年後また木を植えることになります。それに比べ、オリーブは寿命がとても長い。そして実がなります。樹木葬をされる家は、跡継ぎがいない方が多い。実がなるって、大切な方の生まれ変わりだと思ってるんです。
垣内氏:なるほど、それでオリーブに。
山本:はい。オリーブは“幸せを呼ぶ木”と呼ばれています。実が採れたり、油になったり、人に喜んでもらえるものなんです。
誰もが行きたくなる工夫が随所に。
千年オリーブの森の管理棟に設置した「楽樹(がっき)」。人気アーティスト絢香さんのCDジャケットに使用されたもの。
千年オリーブの森、一番奥の部屋の中にあるUFO。年3回、開帳。
スロープを使って、みんなが乗車できる電車。
山本:千年オリーブの森にある“楽樹(がっき)”は、亡くなられた方たちが、あの中で演奏会をしてくれたらいいなと設置しました。皆さん、子供たちを連れて見に来られたりと自慢の場所になっているようです。
垣内氏:写真を撮ってSNSにアップしたくなる霊園って他にないです。UFOの部屋にも驚きましたし、待合室に映画スターの写真を飾られているのも良い工夫だなと思いました。そこで会話が弾みますよね。
山本:電車は、出会いと別れの象徴です。大切な人を送り出したり、迎えに行ったり。電車を舞台にした映画やドラマも多い。電車には人と人を繋ぐ特別な何かを感じています。
垣内氏:どこに遊びに来たんだろう?という感覚になりました。お墓参りの固定観念を打破するものだと思います。そして西鶴さんはSNSでも多くの方とつながり、発信をされています。この取り組みを通じて、日本の霊園に対するイメージも変わっていくと思います。社員の皆さんもとてもフレンドリー。ミライロのユニバーサルマナーを習得された方も多く、ハードはもちろんハートの部分も至れり尽くせりでした。
山本:ありがとうございます。
垣内氏:ハピネスパーク牧野も千年オリーブの森も本当にフラットで移動しやすいです。千年オリーブの森では、バケツじゃなくてジョウロを設置されている。そこに感動しました。バケツの場合、一人では運びづらいところがあります。実際そこまでいらないということで変えられたとのこと。日々アップデートされ続けている。その姿勢も西鶴さんの魅力です。
ジョウロ・水道の蛇口は、車いすや高齢の方、子供たちも使いやすい高さに設置。
「もっと喜ばせたい」が原動力。
山本:今後も、バリアフリー・ユニバーサルデザインに配慮して、古い霊園を再生していきたい。お墓参りに行かなくなった人たちが、また行きたくなるものを作りたいです。それと霊園を1から作り上げたいと思っています。
垣内氏:時代が西鶴さんに追いついてきてると感じます。桜ではなくオリーブを選ばれていること、高齢者・障害者、みんなに優しい空間を作られていること。誰一人取り残さない持続的なものづくりを20年も前から続けられている。
山本:今、ハピネスパーク牧野を拡張して森を作る計画を進めています。きれいな川も作って、森の中でホタルを育てます。
垣内氏:発想力がほんとすごいです。
山本:16年前に亡くなった母が「梅雨になると故郷にホタルが飛んでいた」と言っていました。亡くなる前に見せてあげたいと思い、ホタルをとってきて病室で放すと喜んでくれた。病院に怒られるかなと思っていたら、看護師さんたちも集まり「きれいだね、ホタル」と喜んでくれた。それを表現できたらいいなと。
垣内氏:どんな時も皆さんを喜ばせたいということが山本さんの根底にあるんでしょうね。その中には、もちろん障害者も含まれている。
山本:企業にとって利益の追求は大事ですが、まずは相手が喜ばないと。多くの人が勘違いしていて、儲けたいけど喜ばせてないんですよ。
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